第55話

 少し恐ろしくも感じるその笑顔を彼は顔に張り付けて、私たちを見ている。エラは怯えてしまって、私の服を掴んで離さない。子供を怖がらせるのはやめてほしい。そうは思いながらも、私は少し嬉しくも感じていた。あの笑みはきっと、解決策を見つけたと言うことなのだろうから……。

「僕は今、力のある魔法使いとしてここにきているんだ」

 ニヤニヤと怪しげな笑顔を崩さないまま、彼は椅子に手をつく。

 水の五大精霊は、精霊だと言うことを明かしているからこの警備なのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「今の僕らの会話は、魔法でこの子達には聞こえないようにしてあるから、僕たちが精霊だと言うことはばれていないと思うよ。3人の姿も見えないままにしてあるしね」

 この子達、と言うあたりが種族の違いを感じさせる。こんな可愛らしい見た目をしていても、彼は長くを生きた精霊なのだ。

 それに、私はてっきり、ゼラ達も護衛の人たちに見えるようにしたのかと思っていたが、違うらしい。そういえば、ゼラ達は見た目からして明らかな精霊なのに、先ほど兵達は驚いた姿はなかった。つまりは、そう言うことなのだろう。

「問題なのは、僕をここにおいてくれているのは、王様じゃなくて息子さんなんだってこと。陸に住んでいる国の人たちに訴えかけるのは、王様じゃないと厳しいよね」

 それは問題だ。海の汚染に気がつき、物事を進めてきたのが王子様なら、王様はあまり関心がないと言うことなのだろう。それでは困る。この問題は世界で取り組まなければならない問題なのに、一番先頭に立たなければならないはずの海の王様が非積極的だなんて。

 陸に国を持つ人々は、王子1人と魔法使いの言葉なんて、聞いてくれるだろうか。海を守るなんて、新たに法律を作るなんて、はっきり言って面倒だろう。けれど、いつかは彼らにも被害が出る。そうなるまで、協力してもらえないのだろうか。うまく説明すれば、なんとか……。

 ふふふふふ。笑い声が聞こえる。これは、楽しそうと言うよりも、なんだか禍々しいような……。

「大丈夫、王様もちゃんとお話をすればわかってくれるよ。お話を、ね」

 彼の目はギラギラと光っている。

「ぼ、暴力は、だめよ」

 冬菜はそう言って笑っているが、その額には汗をかいていた。

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