第32話

 2人でまた木を背に座り込む。エラが嫌だというなんて思っても見なかった私達は、驚きと疑問、そして悲しみに包まれていた。

 冬菜は先程までの嬉しそうな表情が消え、疲れ切ったようにため息をついている。私はそれをただ見守ることしかできない。

 慰めるように冬菜に寄り添いながら、私の心も重くなっていくのがわかる。エラが私達の提案を断ったのは、私のことが信用できないからなのだろうか。そんなくだらないことを、頭の中でぐるぐるといつまでも考え続けてしまう。そう、くだらないこと、だ。

 娘の健康を願う冬菜の思いに比べたら。耐え続けるエラの苦しみに比べたら。そうわかってはいるのに、私の頭は考えることをやめない。

「……そろそろ日が沈むわ、雪菜。今夜は泊まって行って」

 私なんかに気を遣っている場合ではないだろうに、冬菜はなけなしの気力を振り絞って笑顔を浮かべる。

 冬菜にはいつも迷惑をかけてばかりだ。私はいつも忘れ物をしては冬菜に借りに行っていたし、冬菜より先に死んでしまった。それどころか親友の冬菜が困っている今、力になってあげられなかった。私は本当に、どの世界にいても。

「雪菜、どうかしたの」

 冬菜が心配そうに私の顔を覗き込む。ダメだダメだ。冬菜が落ち込んでいる今、私がしっかりしないと。

「大丈夫よ。うん、そうね、泊まっていくわ」

私は精一杯の笑顔を作った。それが心からの笑顔なのかは、私にもわからないけれど。


 冬菜と一緒に夕食の支度を進める。この世界ではあまりやらなかったし、前世でも母に任せきりだった私は、お手伝いのようなことしかできなかったのだが、冬菜は少し楽しそうにしてくれていた。

 冬菜はエラを拾ってからずっとエラの食事を作っていたらしいのだが、誰かと一緒に料理をすることはなかったらしい。それに、作るものも体にいいものや食べやすいものばかりで、普通の生活を送っていた私たちとは馴染みのない料理ばかりだ。冬菜は苦労をしてきたのだろう。今は私がしっかり支えてあげないと。

「さ、出来上がり」

 だんだんと元気を取り戻してきた冬菜がそれをお盆に乗せると、私達は台所を後にしてエラの部屋に向かった。

 今日の晩御飯はうどんだ。最初に見た時は、懐かしさに泣いてしまいそうになる程驚いた。前の世界のものをこの世界で再現できるなんて、思いもしなかったのだ。

 うどんはエラも好物だと以前言っていたらしく、仲直りのつもりで冬菜は作ったようだ。夕食を機に、少しでも話ができるといいのだけれど。私はそんな淡い期待を胸に、エラの部屋へと向かった。

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