第33話
お盆を二つも抱えた冬菜の代わりに、私がエラの部屋をノックする。
「エラちゃん、晩御飯よ」
「はいるわよー、エラ」
2人で声をかけるが、中からは返事どころか物音すら聞こえない。私が扉を開けると、エラが不機嫌そうな顔で私たちを見ていた。何か機に食わないことでもあるのだろうか。今日の晩御飯は、せっかく彼女の好きなうどんだというのに。
ベッドの横に置かれた少し大きめの木のテーブルに、冬菜がうどんの乗ったお盆を置く。3人で一緒に食べるつもりで並べられた3つのそれを、冬菜は少し寂しげに見つめた。冬菜はエラの機嫌がまだ良くなっていないことに気がついているのだろう。もしかしたら、この食事はあまり楽しいものにならないかもしれない。少しの期待を押しつぶしつつ、私は何とか笑顔を保つ。
「あら、椅子が足りないわ。とってくるわね」
いつも食事はこの部屋で2人でとっているらしいのだが、その時はあまり動けないエラはベッドに、冬菜は椅子に座って食事を取るのだという。そのためいつもこの部屋には椅子は1つしかなく、1つ椅子が足りないというわけだ。
冬菜は鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。少しでも気分を上げようとしているのだろうか。
エラの方に目を向ける。エラは俯いていてこちらのことを見ようとしない。
「ねえ」
声をかけても何も返事をしない。もしかしたら、気に食わないのは、私達の出したあの提案ではなく、私なのではないだろうか。私の何かが嫌だから、私の出した提案を断った。考えられない話ではない。私達は初対面だけれど、もうすでに私は何か嫌われるようなことをしてしまったのだろう。
「何か嫌なことがあったんだよね。私のせいかな。もしそうなら、教えてくれる」
優しく語りかけても、エラはやっぱり返事をしない。相手の嫌なところを教えるのも躊躇われるほど、私は嫌われてしまったのだろうか。
「……だもん」
返事が聞こえたことに少し安堵しながら、私は彼女の声に耳を傾けた。小さな声で、あまり良く聞こえない。
「ごめんね、もう一回言ってくれるかな」
今度はしゃがみ、エラの顔を覗き込みながら問う。エラは私のことをきっと睨んだ。
「だって、お姉ちゃんが私のお母さんをとったんだもん」
その声は怒りに満ちていて、病人であるのだということを感じさせるほどなのに、子供の声にしては小さなものだった。
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