第9話
赤い服に赤い髪、そして大きく光る燃えるような瞳。火の精霊かもしれないと判断するには十分すぎる材料だ。
「聖女さん、どうしたの」
驚いてしまって何も言わない私に、彼女はこてんと首を傾げる。不思議と緊張はしなくて、私の中は喜びで埋め尽くされていた。これが精霊。私が昔あったのは本当に精霊なのかと思うくらい、可愛らしい。あの白く美しい小人さんは、いったい何者だったのだろうか。
「初めまして、精霊さん」
私達は好奇心に包まれて、お互いを見ていた。危害を加える気なんてないことは目を見ればわかる。私がふふふ、と笑うと精霊さんも声を出して鈴のように笑った。
「聖女さんは、私達に悪いことしないよね。怖くないよね」
精霊さんは確認するように、私に期待の目を向けた。私は慌てて表情を作って笑いかける。
「もちろんよ。私には勝てっこないもの」
事実、私には何の力もない。あるのは、これまで培ってきた知識くらいだろう。癒しの力は、今まで一度も使ったことがない。試してみたこともあるのだが、使い方がよくわからずに断念したのだ。
私の言葉を聞いて安心したのか、2人の小さな女の子達が、木の後ろから出てきた。先程、この赤い精霊さんに何もしないかを聞かれたのは、彼女達を安心させるためだったのだろう。
「改めて自己紹介をするね」
赤い精霊さんが羽をパタパタと羽ばたかせながら、2人の方へ飛ぶと、私の方を振り返って笑った。見た目で何となく彼女らの属性はわかるが、彼女達の名前まではわからない。いつまでも精霊さん、と呼ぶわけにもいかないだろう。
「私が火の精霊で、こっちが水の精霊と、こっちが風の精霊だよ」
水の精霊と紹介された少女は長く、薄い水色に色づく美しい髪をくるくると指に巻いて、恥ずかしそうにこちらをみている。風の精霊さんはボブくらいの緑の髪で、優しく笑っていた。
「よろしくね」
どうやら自己紹介はこれで終わりらしい。私は名前を教えるに値しない人間だと思われているのだろうか。
「えっと、お名前は……」
私が問いかけると、火の精霊さんは驚いたようにこちらを見た。けれどすぐに笑顔にになると、私の肩に腰掛ける。
「私達精霊で名前を名乗っていいのは、高位の精霊か聖女さんの契約者だけなの。ごめんね、聖女さんは人間だから知らなくて当然だよね」
それは聞いたことのない話だ。けれど、私はなるほどと頷いた。聖女と契約した精霊が名前を持つなら、今までの聖女は契約した精霊を名前で呼んだだろう。それなら、人間の身近にいた精霊は名前を持っている精霊だけだ。だからその話は伝わらなかったのだろう。
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