第2話

 私はどうしてここにいるのだろうか。最近はめっきり私に会いに来なくなって、マリア様とばかり一緒にいたアレグザンダー様。そのアレグザンダー様に呼ばれて、私はこの学園の中庭にいる。そういうものは、悪役であるクロエの方から呼び出していじめるのではないの。ゲームでもそうだったし、私はてっきりそういうものだと……。

 ……え、悪役、ゲーム。どういうことなの。急いで過去を辿っても、そんなことを言われた記憶も、言った過去どこにもない。となると、雪菜の記憶が鍵を握っているのだろう。思い出せ、思い出せ。クロエが悪役だという意味を。この世界がゲームではないという証拠を。

 私はしばらく固まったように頭を抱えていた。そして、私は。……思い出した、思い出してしまったのだ。どうしてゲームなんて言葉が出てきたのか。私が、クロエが悪役だなんて思ったのか。そっくりなんだ。登場人物の顔も、名前も、学園の風景も、設定も。雪菜がプレイした恋愛ゲームに……。

「クロエ、お前はマリアをいじめていたようだな」

 そう、ゲームでは悪役令嬢であるクロエがヒロインのマリアをいじめるのだ。

「証拠はここに記録してある、暴力や暴言の数々だ」

 クロエはマリアに暴言を吐き、自分の婚約者であるアレグザンダーに彼女を近づけないようにする。そうだ、そうじゃないか。

「さあ、マリアに謝れ。一言でも謝れば学園からの退学は見逃してやろう。婚約破棄は、免れないが」

 うるさいわね、今大切なことを思い出しているのだから、話しかけないでちょうだい。それで、どこまで思い出したかしら。

「クロ」

「うるさいわねっ」

 思わず大きな声で叫ぶ。はっと我に帰っても、もう遅い。アレグザンダー様だけでなく、周りの人々もポカンと口を開けて私を見ていた。仕方がない、思い出すのは後回しだ。今はこの状況をなんとかしないと。

「失礼。婚約破棄ならお受けします」

 クロエは、私は王子の婚約者という立場に固執してはいたが、別にアレグザンダー様のことを愛していたわけではない。それならこれ以上抵抗をせずに婚約破棄してしまうのが得策だろう。

「そして、謝罪の件ですが」

 これに関してはいうことは一つだ。私はやっていない。暴言も、暴力も。ゲームのクロエはマリアを虐めていたが、私はせいぜい睨んでいたくらいだ。それならば私の答えは決まっている。

「私はマリア様のことをいじめてなどおりません。ゆ、え、に。謝罪など、致しません」

 私ははっきりとした声で怒鳴りつけるように言ってやった。自分の主張を、相手が王族だからとかき消されないように、はっきりと。後悔するかもしれない。そんな考えはどこかに吹き飛んでしまっていた。

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