第59話

 自分で見つけ出したその問題。自分のためでもあったのだと思う。大切な、自分の属性の海に汚れてほしくないから。そこに住むもの達に傷ついてほしくないから。だから、スィーは頑張ってきたのだ。努力してきたのだ。

 それでも、自分を理解してくれる人が、秘密を話せるような、知っている人が欲しかったのだろう。あの王子様は、とても歩み寄るタイプには見えなかったが、彼にはそもそも精霊だということを話すことさえできない。騙し続ける罪悪感。その心には少し重すぎるそれは、ずっとスィーを苦しめてきたのだ。

「冬菜達にも、伝えておくわね」

 きっと喜ぶわ。そう付け加えようか迷ったのだが、そんなことはしなくても大丈夫そうだ。

 抱き寄せるなんて余計なことはしない。こう見えて、彼は長くを生きた精霊であり、見た目相応の精神年齢をしているとは限らない。子供扱いをする必要はないだろう。

「ユキナ」

 スィーはゆっくりこちらに顔を向けて、穏やかに笑っている。安心したような、落ち着いたその表情は、可愛らしいと言うよりも美しい。

「王様を説得してみる。手伝ってくれる」

 少し真剣な目で、声で、スィーは私の手を両手で包み込んだ。答えは一つしかない。

「もちろ」

雪菜っ。すぐに来てっ。

 頭の中に大きな声が響く。無造作に放たれたその念話は周りにいた護衛の人魚達にも聞こえたらしく、戸惑ったような表情をしている。

「僕はここから動けない。行って、ユキナ」

 スィーの顔を見てハッとさせられる。これは緊急事態なんだ。あの冬菜が焦っている。何かあったんだ。

「ごめんっ」

 私はそれだけ言うと部屋を飛び出した。魔力感知で冬菜達の大体の位置はわかる。急がなきゃ。もし間に合わないようなことがあれば……。

 考えてはダメだ。自分をうまく丸め込み、私は走った。魔法で体に強化魔法を何重にもかけて、走る。転移魔法が使えない私には、それしか方法がない。

「冬菜、どうしたのっ」

 切れる息を宥めるように喉元を抑えながら、私は大きな魔力のある部屋の扉を開けた。後ろの方からゼラ達も飛んできている。

「エラがっ、エラが倒れて……」

 急いで状況を確認するために、地面に倒れているエラの元へ駆け寄る。呼吸は苦しそうではあるが、止まっていない。それに、しんどそうではあるが、どこかを痛そうに抑えているわけでもない。意識もありそうだ。

 この感じ。覚えはある。まさか……魔力、不足……。

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