第123話
悔しさに涙を浮かべるも、どうすることもできない。片方の手でもう片方の手を潰すように握る。虚しいほどの悔しさが喉の奥を伝って登ってくるのに、私達はただ怒りを抑え込むことしかできない。
これは調査だ。たくさんの人が呪いに苦しめられ、フレンは今もつらい魔力失調と闘っている。けれどそれでも、何の罪も報告されていない2人を危険に晒すことはできないのだ。それに、2人はエラの本当の両親でもあるのだ。万が一2人が傷ついて、エラが悲しむことになったら……。
馴染みのない、会ったばかりの人でも、やっぱり親なのだ。何か思うところがあって当然だろう。それに、マリア様だって……。
敵かもしれない。でも、敵では、悪い人ではないかもしれない。そんな状況の中なら、疑うことはできても、決めつけることはできない。王子様のこともあったし、完全に信用できる、とは言えないけれど。
「この家、探知魔法で探したけれど、ほとんどものがないわ。生活の中で使っているのは、キッチンやお風呂場を除けば、ここだけ見たい……」
冬菜は目に涙を溜めている。新たな事実も発覚し、その上情報も聞き出せなかったのだから、気持ちが安定しないのも仕方がない。
それに、今の報告は本当に残念なお知らせだ。この家は最近作られたものらしいから、もともと希望は薄かったが、どうやら事は最悪な方向に進んでいるようだ。
この部屋しか使われていない。おそらく夫婦の寝室として使われているであろう、この部屋しか使用された痕跡がないのなら、マリア様がここで暮らした過去はないということ。漁るような真似をすることになるが、マリア様の私物から何か情報が得られるかと思ったのに……。
「冬菜、もうここにいても仕方がないわ。エラちゃんのところへ向かって、ここの人たちにかけた魔法を解きましょう」
冬菜はすこししぶったような目線を私に送っていたが、すぐに小さく頷いた。冬菜もわかっているのだろう。ここでできることは、もうないと。
今は、とにかく早くエラのもとへ行き、安心させてあげることだ。それは私の役目ではなく、母親である冬菜の役割だ。
たとえどこに本当の両親がいようと関係ない。エラをここまで立派に育ててきたのは、紛れもない冬菜なのだから。
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