第39話

 確かにそうかもしれない。私は小さく頷く。

 私のストッパーだと見られるはずのそれは、あくまでも私より強くなければならない。何かあった時に、私を止めてくれなければならないのだから。

 けれど、私は聖女で、いつかのあの白い精霊と契約しているからだろうが、かなり魔力量が大きい。普通の人間、貴族として暮らしていた頃はそれを隠すのが大変だったものだ。

 魔法もそれなりに学んできたため、私が本気で戦えば、もしかしたら小さな国一つくらいなら滅ぼせるかもしれない。言い方は悪いが、私は自分が恐ろしい力を持っている自覚はある。その力をおかしな方向に使わないように、注意も常にしてきた。

 そんな大きな力を持つ私に、冬菜よりも弱い彼女が勝てるとは、悪いけれど思えない。もちろん、私だって他の人の声に耳を傾け、争いにならないように努力はする。けれど、時々おかしなことをするのが生物だ。私が一生、死ぬまで正しいことしかしないわけがないのだから。

「五大精霊くらいの力がないと……厳しいと思うわよ」

 精霊である冬菜は、魔法や力のことに関してやたら詳しい。人間とは所々見方が違うところもあり、私は冬菜の話を聞くのが楽しかった。冬菜がそうだというのなら、きっとそうなのだろう。

「お母さーん、お姉ちゃーん」

 家の中からエラが走り寄ってくる。

「待って、エラちゃん」

 その後ろから、小さな赤い精霊も後を追ってきた。実は彼女は、依頼してきた火の精霊さんに報告に行くと言って、冬菜と会った時点で一度離れてしまっていたのだ。その後は、どのタイミングで戻ればいいのかがわからなくなり、依頼主とともに見守ってくれていたらしい。

 声をかけてくれればよかったのに。そう言いたい気持ちなのは山々なのだが、大泣きしていたことや、もめていたこともあり、私達は何も言えなかった。

「なんのお話してるの」

 こてんと首を傾げて可愛らしく笑うエラに、私の口も勝手に笑う。

「そうね。エラも元気になったことだし、これからどうしようかなってお話」

 エラがそれを聞くと、ほおに手を当てて悩むように唸った。

 エラ自身はこれからどうしたいのだろうか。ここに留まる、精霊の森に行く以外にも、選択肢はたくさんあるはずだ。エラにもやりたいことはたくさんあるだろうし、できれば危険でないことはできるだけさせてあげたい。お金が必要なら、私は喜んで働こう。私の生活費にもなるだろうお金を稼ぐその方法は、あまり人と接することができない以上、内職くらいしかないかもしれないが。

「私の希望を言ってもいい」

 エラが何かを思い付いたかのように、突然声を発した。エラはこれからの未来をどんなものにしたいのだろうか。それは私だけでなく、冬菜も気になっていることだろう。

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