第36話
冬菜の作ってくれたうどんは、何度口に運んでもやっぱり美味しい。野菜たっぷりのこの具も出汁がよく染みて、うどんにあっている。これなら、エラが気にいるのも納得だ。
最後の一口を飲み込むと、私は冬菜と一緒におぼんを下げ、皿洗いは後にしてエラの部屋に戻った。いよいよ、私の聖女の力を試す時が来たのだ。
「聖女の力はね、魔法の力で悪いものを包み込んで、消してしまうものなの」
初めて力を使う私のために冬菜が説明してくれる。その説明は、娘であるエラを安心させるためのものでもあるのだろう。
聖女の力の一般的な説明はゲームにも書いてあったが、使い方などの詳しい説明は載っていなかった。けれど、精霊たちには伝わっている様だ。
「雪菜、大事なのはイメージよ。集中して、成功する姿をイメージし、願うの」
冬菜は私を緊張させないようにか、ニコニコと笑っている。けれど、心の奥底ではきっと、恐怖と闘っているのだろう。どうしようもないくらい怖いと思う。どうしようもないくらい不安だと思う。それなのに、母親である以上しっかりしなければと、前を向いて頑張っている。
エラも真剣な表情をしてはいるが、怖いだろう。この世界で信じられている力ではあるが、何せ一度も実践したことのない力だ。何が起こるかは私たちにも分からない。
重い空気が漂う。仕方のない話だ。絶対に失敗するわけには行かない。けれど、緊張していては余計に失敗する確率が高まる。私にできるのは、ベストを尽くすことだ。自分にできることをやってみる。チャレンジしてみる。その心が大事なのだから。
横になっているエラの手を握る。何かあった時に地面に倒れなくて済むように、あらかじめベッドに寝てもらうことにしたのだ。
エラの魔力を感じ取る。自分の魔力を伝って、エラの中心にあるはずのそれを探っていく。
それの近くまでたどり着くと、まるで蝕むようにエラに襲いかかる何かを見つけた。それはゆっくりエラの光を吸い取っていて、そのすぐそばから別の魔力が注がれている。おそらくこの魔力が冬菜の魔力なのだろう。
ここまで来たら、やってみるしかない。私は意を決して自分の魔力で、エラの魔力を喰む、その黒い何かを包み込んだ。抵抗するようにそれは私の魔力も吸い取ってくる。ここで負けてはいけないと、必死に粘るのだがなかなか包み込むことができない。
焦って何もできなくなる。けれどそれでは本末転倒だ。冬菜は言っていた。イメージが大切なのだと。それなら、無理やり包み込むよりもイメージするのだ。それを包み込み、優しい色で満たす、その未来を。消そうとしては相手も抵抗するだけだ。覆うのではない、包み込むのだ。
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