第124話
まるでもともとそこには誰もいなかったように私達が消え去ると、館周辺はまるでかかっていた霧が晴れたように、人々に笑顔が戻った。強く催眠にかかってしまっていた館の持ち主達は、先ほどまで何をしていたかわからずに、不思議そうに首を傾げる。馬鹿らしいほどに平和な日常は、当然のようにまた回り始めた。
私達はその様子を魔法で画面越しに見守ると、少しの安心感を握りつぶすような、恐怖が私たちを襲ってきた。エラの本当の両親を名乗る2人のことを思い出したからだ。ありえないことではないし、検査をすればわかることだ。検査といっても、この世界では血縁関係を調べるには、魔力の質を調べる魔力検査が一般的だが。
「エラ……」
エラがとった宿の一室で、私達は静かに、そして重い空気に潰されそうになりながら向き合っていた。感じたことのない不安に耐えているのは、きっと私だけではない。当事者の2人は、それ以上の不安と恐怖を……。
「お母さんっ、私、何があっても行かないからっ。私のお母さんは、お母さん1人だけだよっ」
耐えきれなくなったエラは、涙を滝のようにボロボロとこぼしながら冬菜の腕を必死に掴んでいる。
行かないで。おいていかないで。一緒に居させて。そう言いたいのだろう。エラが行ってしまうかと思った、私たちのように。
「……私たちの話、そこの3人の魔法で聞いていたのね」
私は気がつかなったが、私達が先ほど使った覗ける魔法で、エラ達も私達のことを覗いていたようだ。これも禁忌の魔法で伝わっていないから、そう簡単にボンボンと使えるものではないのだけれどね。
エラが小さく頷く。前世を合わせればとっくに成人している私達と比べて、エラはまだこんなに幼いのに、私たちと同じくらい、いや、それ以上の恐怖に耐えているのだ。そう考えると、こっちまで涙が出そうになる。
「……わかったわ。ありがとう。そういってくれて安心よ……」
冬菜は久しぶりに涙を見せた。つーっと冬菜のほおを涙が伝い、その先から落下する。
捨てられたわけではなかった。それを知ってもなお、冬菜のところに、私達のところにいてくれるということは喜ばしいことだ。それは、向こうの両親にとっては悲しみとなるが、エラの決断なら、きっと誰も文句は言わないだろう。
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