第118話

 まるで生気の抜けたような目で何かを見つめる2人を、冬菜は悲しそうな目で見つめている。私と同じことに気がついたのか、自分のやったことを目の当たりにして、罪悪感に苛まれているのか。親友のはずなのに、私にはそれさえもわからない。

「マリア様のことについてお伺いしてもいいですか」

 なるべく早く済ませてここからでなければ、いつまで経ってもたくさんの人が洗脳状態のままだ。そう思った私は、2人に声をかけた。

 2人は顔をあげたかと思うと、突然涙をこぼした。まるで雨のように次々と振ってくるそれにかき乱された2人の視線の先には、確かにエラがいる。

 エラと冬菜は戸惑ったような表情で、溢れて止められずに涙を流す女性を見ていた。

「ど、どうして泣いているの」

 冬菜は困惑と疑いの目を向けながら、2人に尋ねた。自分の娘を見ながら泣かれるなんて、誰でも警戒するだろう。

「……見間違えるわけがないわ。ずっと探していたのよ、私の可愛い娘」

 母親はぽろりとこぼれ落ちたように、ふとその言葉を口にした。エラがこの夫婦の娘。あり得ないと思いたいが、実際あり得ない話ではない。エラは元々、森に捨てられていたところを冬菜に拾われたのだ。

 冬菜とエラは怒ることも悲しむこともせず、ただ驚いたような、困ったような顔をして立ち尽くしていた。私だって、逃げ出したい気分だった。敵かもしれないマリア様のご両親の子供ということは、エラはマリア様の妹に当たるということになる。

 いや、それ自体には何の問題もない。エラがたとえ何者であろうと、エラは冬菜の可愛い娘で、私の大切な姪っ子のような存在だ。

「ああ、帰ってきてくれたのね……」

 洗脳状態にあるはずなのに、どうして。そんなにもエラの帰りを待ち侘びていたというのか。

 冬菜はエラのことを強く抱きしめている。どうしようもない恐怖が今、冬菜を襲っているのだろう。

 世界で一番大切なものがとられそうになっている。初めて会った、今まで何の関わりもなかった人の手によって。

 ああ、こんなことなら、ここにくる前に安全そうな宿をとって、エラを守るべきだった。怖くて怖くて仕方がない。どうして、今更。十年以上経った、今更。私の、私達の宝物は……。

 ……行かないで、エラちゃん。

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