第126話

 転移魔法を使い、先ほどいた城の地下へと乗り出す。いつもよりも緊張感が漂っていたが、問題なく転移は完了した。危険な地に乗り込む恐怖に、心臓は大きな音を立てて警告を出している。行くな、行ってはだめだ。そこは危険だ。分かり切っていることをなんども告げるそれは、まるで私達はこれからすることの本当の危険さを、理解していないとでもいうようだ。それでも、いかないわけにはいかないのだ。何もしなければ、何も変わらない。雨が降らなければ虹はかからないように、自分が思い描く未来のためには、何かしらの努力が必要なのは常だ。

 声で侵入者がいることを悟られないよう、念話で話す。洗脳してしまった方が楽なのだが、私達は入り込みやすくなるよう認識阻害や、何かあった時のための防御の魔法だけかけて、乗り込むことにした。あまり洗脳魔法を使いたくなかったのもあるが、ありのままを見てみたいというのが大きいだろう。

 洗脳して仕舞えば、楽にたくさんの情報が聞き出せるが、普段の様子や、洗脳をかけられた本人が自覚していないことなど、得られない情報もたくさんある。そう考えれば、危険は伴うが、普段の生活をのぞかせてもらうのもいい方法だろう。覗きをしているような気がしてならないが……いや、その通りか。

上にいきましょうか。今回の魔法はかなり強力な魔法だから、ちょっとやそっとじゃ、私達がここにいることはバレないわよ。

 薄暗くてよく見えないが、冬菜は自信満々に笑っている。こんな状況なのに、冬菜のそんな顔を見ると、なんだか楽しく思えてしまう。

 私達は地下を出るために、長い階段を登り始めた。暗視の魔法を使っているので、明かりをつけずともよく見える。施錠されている扉の前まで来ると、冬菜は扉に手を当てた。何か魔法を使っているようで、真剣な表情をしている。

通り抜けるわよ。さ、来て。

 冬菜がするりと扉を通り抜け、向こう側に消えてしまった。少しドキドキしつつも、勇気を出して扉に突っ込む。……すり抜けた。まるでおばけにでもなった気分だ。

 それにしても、転移魔法を使える上に、そこにいることさえバレずに、物を通り抜けることもできる。現代の人間が使えたら、不法侵入し放題の世界になってしまいそうだ。乱用しないように気をつけないと。……もうしてる気もするけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る