第127話

 扉を通り抜きてまず最初に見えたのは、見覚えのある廊下のようなところだった。正確にはみたことがあるような気がするだけで、実際に見たことがあるわけではない。城の中の構造や装飾はよく似ているため、少し懐かしく感じてしまっただけだ。

 懐かしく感じるなんて、おかしな話だ。昔は、あの頃の私はこれからの一生をお城で暮らすのだと思っていた。だけどそうはならなかったし、それが幸せだとも思ってはいなかったけれど。

 少し悲しいような気持ちになりながらもあたりを見渡していると、冬菜がこちらを振り向いた。困ったような顔をしている。

魔力探知で探しても、聖女と思われるであろうほどの大きな魔力の持ち主が、引っかからないのだけれど。

 困っている理由はそれか。私も魔力を張り巡らせて探すも、大きな魔力反応はない。聖女と呼び慕われるほどの力があるのだ。魔力量もそれなりに多いと思うのだか……。

「きゃっ」

 不意に発せられた声に私が振り返ったのは、冬菜の方だった。もとより警備兵なども配置されないほど重要な場であるここには、私達以外誰もいないが。

 冬菜は地面に座り込んでしまっていた。洞爺の視線の先には、恐怖を暗示するような黒の魔法陣がある。何が書かれてあるのかはわからないが、魔法陣から伸びる何かは、冬菜の方に向かって手を伸ばしていた。

「消えてっ」

 目をぎゅっと閉じて自分の身を腕で庇う冬菜がそう叫ぶと、その魔法陣は散り散りになり、跡形もなく消え去った。私は咄嗟のことに呆然とみていることしかできなかった。無事だからよかったけれど、親友の危機に一歩も動けないなんて……。

「大丈夫、冬菜」

 何が起こったのかわからないのだろう。冬菜は私の問いに答えることなく、魔法陣のあった場所を口を開けながら見つめている。

「冬菜っ」

 声を出してはいけないことを気にしている場合ではない。肩を揺さぶってやっとこっちを向いた冬菜に、私は心配の眼差しを向ける。

「だい、じょうぶ……。大丈夫よ」

 冬菜はしどろもどろではあるが、なんとか返事をした。明るい冬菜には似合わない、うまく作りきれていない顔で笑う冬菜からは、本当に怖かったことが伝わってくる。

「そっ、そんなことよりっ」

 私の腕を掴み返した冬菜は、本当に焦った顔をしている。自分の身の危険が、そんなことと言えてしまうくらい、重要なことって……。

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