第53話
みるみる彼の顔色がよくなっていく。それに応じて、私は少し疲労感を感じていた。冬菜も少ししんどそうだ。
「わあ、ユキナは魔力量がとても多いんだね。これなら、数時間は保つかも」
先ほどの儚げな少年とは打って変わり、彼はその見た目相応に元気に笑っている。その元気さは、椅子から飛び上がって、私と冬菜の手をぶんぶんと振り回すくらいだ。
「水の五大精霊様。大丈夫ですか」
フィーが本当に心配そうな顔で少年の元へ急ぐ。彼は嬉しそうにフィーの元へ駆け寄ると、フィーを手に乗せて楽しそうに頭を撫でた。
「大丈夫、大丈夫。心配してくれたんだね。みんなも、ありがとう」
にこにこと笑うその笑顔は、本当に子供のようだ。けれど、その笑顔の中に、暗く辛い何かが隠れているのは大抵の人ならわかるだろう。苦しそうな笑顔で、笑っているこの子を見れば。
そろそろ状況を説明してもらわなければ。今ここにきたばかりの私たちには、何が何だかわかっていないのだから。私が疑問を抱えて自分を見ていることに、彼は気が付いたのかため息をついた。その顔から、笑顔が消える。
「海がね、荒れているんだ」
悲しそうに、真剣な顔で訴えるように少年は言う。
「生き物の出すゴミで溢れかえっていてね。川も、湖も汚れてきている」
頭の中に流れ出てきたのは、前世の世界。あの世界でも、川は汚れ、海にはゴミが流れ、世界中で問題になっていた。
この世界は、まだそこまで私たちの技術も発展しておらず、魔法に頼り切ったこの世界では、今後化学物質のようなものが海に流される心配も少ないだろう。そう考えれば、この世界はまだマシな方なのかもしれない。
「今のところ、被害は大して出ていないんだけど、このまま進んでしまうと……」
いいわけがない。被害が出なければ、いいわけがない。世界は人間達のためだけに存在しているのではないと言うことを、忘れてはいけない。世界は、世界のために存在しているのだ。
私達は世界の一部として生きている。その世界の一部である海が、川が、湖が危険なら、世界をもって助けなければならないだろう。
綺麗事のようなことを言っているのは分かっているが、そうなればいいなと願うことしかできない、最近までの無力な私はもういないはずなのだから。こんなに仲間に囲まれて、強くなった私達なら、少しくらい、何かができるはずだから。
「みんなで、考えましょう」
何かできることが、あるはずだから。
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