第115話

 私達は息を潜めて、注意深く男達を観察していた。認識阻害の魔法を使っているとはいえ、大きな音を立ててしまっては怪しまれるだろう。なるべく気取られないようにしないと。

 男達はため息をつきながら奥へと進んでいく。私達の前を通り過ぎ、角を曲がったのを見届けると、私達は目を合わせて頷いた。どうやらこれ以上の情報を得ることはできないようだ。城から出て、情報を集めないと。

 冬菜が私とエラの手を握る。私が瞬きをした次の瞬間には、私達は裏道のような場所にいた。後ろには大きなお館があり、どうやらそこは貴族の住む家のようだ。貴族の家の近くだから、人通りがないのだろうか。

「ここはどこなの、冬菜」

 私が尋ねると、冬菜は自慢げに館の方を指さした。この家が、今回の件に何か関係があるのだろうか。

「ここ、例のマリアサマのご両親のお家なのよ」

 冬菜のその言葉に、私とエラは驚いて目を見開いた。エラは、目がこぼれ落ちるのではないかと言うほど、思いっきり見開いている。この反応を見るに、冬菜はエラに、マリア様のことに関しては話してあったようだ。

 エラは聡明だ。そんなこの子なら、今自分に何が起こっているのかも理解できるだろうし、受け入れることもできると踏んだのだろう。

「え、でも、マリア様って、平民出身なんでしょう」

 エラは不思議そうに首を傾げている。それは確かに私も疑問だ。マリア様のご両親がこんなに大きなお家を持っていたなんて、私が貴族として暮らしていた頃には聞いていない。

「ええ、でも最近、王子の婚約者になったからにはと、マリアサマのご両親に家とお金が与えられたそうよ」

 冬菜は一体どこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか。いつのまに情報を集めているのだろうか。少し尊敬するなあ。

 未来の王妃様の両親、生みの親が平民として普通に暮らしているなんて、国はメンツが潰れるとでも思ったのだろうか。館は貴族にしてもそれなりに立派な方で、平民という身分を考えればかなりの贅沢だ。

「え、どうするの。正面から入れるか試してみるの」

 まさかとは思うけれど、正面突破なの。堂々と入れてください、とでも言うつもりなのかしら。私は小さなパニックを起こしながら冬菜を問い詰めた。思考をぐるぐると回しながら冬菜に詰め寄る私に、エラは呆れと同意を表す目で私を見ている。

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