第141話
音もなく、その扉は私に身を委ね、道を開いた。こちらだよ、と呼びかけるように私の心を導く。その瞬間は、誰の声も私の耳には届かなかった。まるで異次元でも通っているような感覚に、体は驚き、心は震える。
その先に私を待っているのは、恐ろしい現実だ。けれど、私はそのためにこの世界に飛び込んできたようにも思える。私はそっとその不思議な空間から外に出ると、顔を上げ、前を見つめた。
暗い世界から出たように、そこには光があった。眩しいほどの白い世界に、目を瞬きさせる。そこには戸惑ったような表情をする、白い神様がいた。その下には、悔しげに膝をつき、こちらを睨むマリアがいる。彼女にはなんの拘束もされていないのに、精霊王の部屋まで辿り着き、中に入ることができたのに。どうしてそんな顔をしているのだろうか。
「トウナ、フレン。いったいどう言うことだ」
白く長い髪をなびかせながら、彼はマリアを見下ろしている。どうやら彼にも訳がわからないようだ。
「私の契約者の魔力を奪ったのか、それを使って入ってきたのだ、この娘は」
この扉は、魔力に応じて開く仕組みになっているらしい。その場合、五大精霊に認められて開く場合にはどういう仕組みで開くのだろうか。魔力が変質でもするのだろうか。
冬菜とフレンは目に涙を溜めている。よくぞご無事で、よかった、などと安心の言葉を呟きながら、2人は声をあげて泣き出してしまった。この反応……。もしかして、この神様みたいな人が精霊王なの。
「どう、して……」
マリアの声に、はっと現実に帰る。まだマリアを捕らえていない。人間国の人にかけられた洗脳を解いていない。まだ戦いは終わっていないのだ。
けれど、私はマリアの顔を見た途端、急に力が抜けてしまった。彼女は、いや、この子は、子供のようにしゃくり上げながら泣いていたのだ。
「やっぱり、光の五大精霊、逃げちゃってたのねっ……。だって、精霊王が完全に復活してるじゃない。こんなの、勝てっこないわよ。魔力だって、もうないのに……」
駄々をこねる子供のように、マリアは訳のわからないことを呟く。憎いはずなのに、不思議と憎らしく思えない。
「ファンブックには、精霊王の外見についてしか書かれていなかったけど、ちゃんと強いじゃん……」
マリアは絶望なんて言葉は似合わない、まるでゲームに負けたかのように泣きながら笑っていた。
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