第140話

 自分の体に魔法を重ねがけして、無理やりスピードアップをはかる。回復魔法もかけ続けねばならないから、かなり魔力の消費量が多い。魔力が減って仕舞えばできることも少なくなるが、その場にいなければ意味がないのだから仕方がない。

 マリアの魔力が微かに見える。立ち上がるのが早かったおかげか、そう遠くはない。もう無理だと嘆く体に鞭を打って、足を動かす。無理を言っているのは分かっている。けれど、それでもやるしかないのだ。

 マリアの動きが止まる。どうやらもう精霊王の部屋の前に到達してしまったらしい。何か魔法を使おうとしているのがわかる。早く行かなくちゃ。五大精霊はまだ完全には回復していない。それなら精霊王もまだ回復しきっていないはずだ。

「ユキナ」

「雪菜っ」

 絶望の中で光を見つけたように、私は声のする方を振り返る。そこには、見覚えのある顔が魔法陣の中から顔を出していた。

「冬菜、フレ、ン」

 2人が私の体を支えようと、手を差し伸べる。そんなことをしている場合ではないのに。

「精霊王の部屋……マ、リア……」

 その言葉だけで2人には何が起こっているのかが伝わったようだ。この短時間で私たちがどこに転移したのかわかった冬菜のことだ。機転をきかせてくれるだろうと思っていた。

 2人が私の体を支えながら、魔法陣を構成する。私は安心して遠のく意識をなんとか保ちながら、2人に身を委ねていた。


 見覚えのない、真っ白な空間。まるで豪華なお城の中のようなそこは、精霊王の部屋の前のようだ。マリアはというと、見渡しても姿がない。もう部屋の中に入ってしまったようだ。

 どうしよう。どうやって入ったのか見当もつかないし、どうやって助けに入ればいいのかもわからない。この部屋に入れるのは、五大精霊全員に認められたものか、精霊王の契約者だけ。五大精霊が5人揃っていない今、この部屋に入る術はない。

「そんな……」

 冬菜は悔しそうに、憎そうに唇を噛みながら扉を睨んでいる。目の前にいるのに、何もできない自分が恨めしくて仕方がないのだろう。

 フレンは目に涙を溜めている。悔しくて、悲しくて。いろんな感情が混ざっているのがわかる。

 ……諦めて、いいのか。マリアが入れたのだ。何か方法があるはずだ。押し通るくらいの気持ちでないと、事は悪い方向に進むばかりだ。諦めて、いい訳がない。

 私は私の体を支えてくれている2人の手を引き剥がし、扉に手をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る