第84話

 フゥに案内されしばらく歩いていくと、町のようなものが見えてきた。神木まで大した距離はなく、森に近い割にかなり発達している。

 入り口らしきところには誰か立っていて、かなり大きいその門にエラは少し気圧されているようだ。目の前までくると、フゥはおはよっと笑って手を顔の横に上げた。おはよう、といっても、そろそろお昼になる頃なのだが。

「おお、フゥか。全く、いつもいつのまに門を潜っているんだ」

 番人らしきその人は、呆れたように笑っている。どうやらフゥは、入る時は人間に姿を見せ、出る時は見せずに出ているようだ。戸籍もないのにどうやって門を潜ったのかはわからないが、あまり精霊かもしれないと疑われるようなことは、しないで欲しいものだ。そんなに簡単にバレてしまうことは、ないと思いたいが。

「そちらは」

 親しげに話す2人は、よく顔を合わせる中なのだろうか。私たちの方に目線を向けながら、番人はフゥに尋ねた。

「トウナ姉さんとその娘さんのエラ、そして姉さんの親友のユキナだよ」

 フゥは丁寧に私たちの名前まで彼に説明すると、番人は満足したようにそうかといって笑った。

 ココまで来たのはいいが、どうやって入ればいいのだろうか。私の、雪菜の身分証なんてこの世界には存在しないし、それは冬菜だって同じはずだ。その娘のエラだって、似たようなものだろう。身分証がなければ、町に出入りすることは難しいだろうけれど、フゥはそのあたりはどうしているのだろうか。

「じゃあまたな」

 彼は急にそういうと、私たちに向かって手を振った。私は訳がわからずに3人を見るも、3人はなんの違和感もなさそうに手を振り返している。私はなぜ通されたのかわからないまま、3人に続いて町に入って行った。

「え、何が起こってるの」

 耐えきれずに私は冬菜に話しかけた。冬菜は少し寂しそうに笑っている。

「魔法よ。私たちに対する認識だけ、少しおかしくしてあるのだと思う。私もよく使ったわ」

 冬菜は少し懐かしそうにエラの頭を撫でながら微笑んでいる。それなのに、その目はやはり悲しそうで。

「こうでもしなきゃ私達、紛れ込めないもの」

 冬菜はフゥを見ながらそういった。フゥは何事もなかったかのように町の中をルンルンとした表情で歩いている。けれど私には、まるで泣いているような、そんな哀しく淋しい顔に見えた。

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