第78話

 訳もわからずに首を傾げる。精霊が宿っている。それがまずいって、どういうことだろう。疑問には思うのだが、なんとなく予想はつく。

「精霊が宿っている木が切られるって……その精霊、消えちゃうじゃない」

 やはりそうだったか、とは思いつつも、私の体を汗が伝う。精霊が消えてしまうということ。それは、滅多に見られない精霊の死。死んでしまうのだとわかれば、流石の私やエラもことの重大さを理解することができた。

 1つの命が、危険に晒されている。私とエラは顔を見合わせ、ごくりと唾を飲み込んだ。

「神木とはいえ、木なんだからいつかは枯れるわ。けれど、宿っている物が自然になくなった場合、精霊は私たちと同じ世界の精霊になれるのよ」

 冬菜がさらに詳しく説明してくれたのだが、よくわからない。

「世界の精霊ってね、世界にあるすべての自分の属性のものが無くならない限りは、存在していられるの。場所やものに縛られないのよ」

 つまり、自分の属性に関わるものが一つでも世界に存在する限り、精霊達に死は訪れない。けれど、ものに宿っている精霊はそのものが壊されてしまうと、消えてしまうことがなくなるということか。宿っているものがある、自分の元となるほど信仰心を集めた何かがあると言うことは、よっぽど珍しいことなのだろう。

「木が枯れたならまだしも、切られるんじゃいきなり生命線を絶たれたようなものよ。そんなの、死んでしまうわ」

 精霊は、人間よりも仲間意識が強いという。冬菜があったこともない精霊の死に、ここまで怯えているのは、そのせいなのだろうか。冬菜は自分の肩を抱きしめ、青ざめている。小さな3人の精霊達も、顔を真っ青にして口を手で覆い隠していた。

「とにかく、その精霊に会いに行ってみましょう」

 私は少しでも前に進めればと、一つの提案をした。とりあえずのものでしかないその提案に、その場にいた全員が頷くと、私達は立ち上がった。


 フゥについて、ゆっくり森を出ていく。その精霊は御神木とともにあるらしく、私達はその御神木に向かって歩いているらしい。が、その場所はどうやら森の浅いところにあるようだ。

「宿っている木の近くにいると、力も安定するからね。離れられないわけではないのだけれど、それなりに力が強くないと、困ることも多いから、基本は離れないことが多いみたいね」

 まあ、事例さえも少ないけれど。冬菜はそう言って何かに呆れるように笑っている。結局は、例が少なすぎてよくわからないということだろう。

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