第102話
大切な話が終わり、私達はほのぼのとした空気に包まれていた。けれど、イーサン様に聞きたいことはまだ山ほどある。
「イーサン様は、どうしてこちらにいらっしゃったのですか。それに、あんな命令書まで持って……」
このいい雰囲気を壊してしまうようで申し訳なく思いながら、私はイーサン様に尋ねた。それを不快に思う者は誰もいないようで、一斉に同意するような視線が集まる。
「……別に、魔力探知が得意なだけだ」
イーサン様はそれだけ言うと、小さく会釈をし、部屋を出て行った。答えになっていない気がするのだが。しかも、さよならも言わずに行ってしまうなんて。やっぱり、聞いたのはまずかったのかしら。
「どう言う意味かしら……。探知が得意、ね」
ゼラは不思議そうに首を傾げている。確かに、あれだけではよくわからない。たまたま来ただけではないと言うことは分かったが、あのキーワードだけでは、どうして命令書を持ってここに来たのか、全くわからない。
そもそも、どうしてこの国にいるのだろうか。それにあの命令書は、前から準備していたのでなければ、どうやって手に入れたのかわからないスピードだ。だって、昨日の朝までは人魚国に、イーサン様は確かにいたのだから。と、なると前から準備していたのだろうか。でも、何のために。ただたんに、困っている獣人達を見過ごせなかったのだろうか。どちらにしても、素晴らしい情報収集能力だ。
「それにしても、なんだかイーサン様、恥ずかしそうじゃなかった」
冬菜は別の件で首を傾げているようだ。まあ、確かに、イーサン様照れてたみたいだけれど。何に照れているのか。いや、あのね、なんとなく察してはいるんだけれど、なんでなんだろうなって言うか……。わからない。イーサン様追っかけてきたのはいいけど、多分そこからどうするかまでは考えてなかったんだろうなあ。だから出て行っちゃったんだろうけど。
でもさ、なんとなくわかるんだよね。女の勘っていうやつなのかな。イーサン様の目線とか、ちょっとした表情とかみてると、明らかに私たちに対する態度とは違うっていうか……なんだろ、なんか悔しい。
「ねえ、冬菜。本当にわからないの」
「え、何が」
冬菜は本当にわからないようで、腕を組んで悩み始めてしまった。どうしてこうなったのかはよくわからないけれど、頑張れ、イーサン様っ。
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