第116話

 冬菜はキョトンとした目で私を見、そして笑いながら私とエラの肩を叩いた。

「やだなあ。どうしてそんなこと聞くの」

 どうやら流石に、直接聞きにいくなんてことはしないようだ。よかった、安心して冬菜について行くことが。

「それ以外にどんな方法があるのよ」

 ……できなかった。でもまあ、確かによくよく考えてみれば、それ以外に方法はない。魔法を使って気づかれずに侵入できたとしても、普通に不法侵入だ。それに、相手に気づかれないということは、話を聞くこともできないということだ。

 いくら緊急事態とはいえ、なるべく犯罪は犯したくない。今でも十分危うい自分の立場を、ますます危うくするだけだ。

「直接話を聞いた方がいいでしょう。まあ、私たちにあったという記憶とか、感情とかは、ちょこっとは操作させてもらうけれど」

 マリア様のご両親には悪いが、それが最善だろう。魔法をかけて話を聞けば、嘘偽りのない事実を知れるし、私達のことが記憶に残ることもない。私達の保身のためには、それが一番だ。

「人間達に魔法を使うのはあんまり好きじゃないんだけど、仕方ないもの」

 少し悲しそうに笑う冬菜は、髪をさらりと靡かせながら俯いている。その仕草を少しでも美しいと思ってしまった私は、酷い女だ。

 エラの方を見ると、微妙な顔をしながらも頷いている。エラも納得したのだろう。精霊である冬菜の気持ちまでわかるなんて、エラは流石だ。

「じゃあ、行きましょうか」

 私が声をかけると、2人は頷いた。ゼラ達も、私たちを安心させるためか、ニコニコ笑っている。

「気をつけてね」

 ランは私の耳元で、そう囁いた。


 冬菜が空に手をかがけ、魔力を広げると、ここら一帯の人が洗脳状態に入った。表通りの方を覗いても、人々はぼうっと通り過ぎて行くだけで、話し声もおぼろだ。この魔法は禁術でもあり、使用するのも大変難しく、方法も伝わっていないのだが、そこはさすが五大精霊としかいえない。

「さ、これで堂々と入れるわよ」

 洗脳を館の中だけにしなかったのは、通行人に私たちが館に入っていったと認識させないためだ。そこから話が漏れて仕舞えば、どちらにせよ私達が調査に来ていたのがバレてしまう。それでは館の人間に魔法をかけた意味がないだろう。

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