第87話

 私達は異空間……というのだろうか。真っ暗に見えるその空間から、しまっていた荷物を取り出し、どさどさと並べ部屋を出た。木の精霊さんのところへと戻るためだ。彼女を守るために話し合わなければならないことはたくさんあるし、できることも多くあるはずだ。今日のうちに、少しでも前進できればいいのだが。

「お母さん」

 エラが冬菜を呼ぶ声が聞こえ、私と冬菜はエラの方を振り返った。私たちの間で私たちと手を繋ぐ冬菜は、もじもじと少し恥ずかしそうにしながらどこかを見ていた。

 その視線の先を辿ると、そこには女の子らしいアクセサリーや服が並ぶ店があった。10代から20代くらいの女性向けだろうか。かなりフリルの多い服が多く、アクセサリーもキラキラしたもの、というよりかは、お花を模したものやリボンが多い。

「あそこ、見たい……」

 エラは少し申し訳なさそうに私達を見上げる。私が冬菜に向かって頷くと、冬菜はエラの頭を撫でながら頷いた。どうやらフゥの意見は聞かないらしい。

「ごめんね、フゥ。ちょっとだけ待っててくれる」

 私がフゥに声をかけると、フゥはどうして、と首を傾げた。

「僕も見るけど……」

 ……えっ、ちょっと待って。フゥってそういう服も着るの。いや、ダメとかじゃないんだけど、今来てる服がかなり少年っぽいっていうか、青年っぽいっていうか、かっこいい感じの服だから、ちょっとびっくりしちゃって……。

「あのお店、ちょっとお高めだから、お財布がいたほうがいいでしょ」

 あ、そういうこと。買ってくれるってことね。それはそれで申し訳な……っていやいや、自分のことお財布って言っちゃってるよ。珍しいタイプね……。

 エラが楽しそうに服を見ているのを見守る中、私達は微笑ましくそれを眺めていた。ただ単純に、嬉しかったのだ。こんなことしている場合じゃないことくらいわかるけれど、何も今すぐに切られるわけじゃない。木の精霊さんも1人で待たせているわけではないし、少しくらい大丈夫だろう。

 エラには楽しんで欲しいのだ。今まで誰かの呪いのせいで色んなことを制限されてきた。だから、苦しくならない動きやすい服しか着られなかったから、女の子らしい服にも憧れるのだろう。この店はかなりかわいいものが多いけれど、それも憧れがあるが故だ。お金を出すのが私達ではない以上、好きなだけ、とは言えないけれど、エラにはこれからを謳歌してほしい。

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