第136話
マリア様は楽しそうに笑っている。それは新しいおもちゃを手に入れた子供のように無邪気で、今自分のしていることの恐ろしさなど、まるで分かっていないようだ。
「まず、あなたは本物の聖女なのよね。呪いを解いた時点で、それは分かってるわ」
マリア様は私の目を見て笑う。その間もエラから手を離さない彼女は、かなり隙がない。
ナイフを持っていないとしても、油断は禁物だ。魔力を奪う呪いをかけられたくらいなのだ。命を奪う呪いや魔法をかけることだって、できるかもしれない。
「それなら、私が偽物の聖女だってことも、分かってるんじゃない」
マリア様は邪悪とも例えられるような顔で私の顔を見ながら、エラの頭を撫でた。エラがビクッと肩を震わせる。それを見て、マリア様は機嫌が良くなったようで、さらに頭を撫で続けている。
「……そうね。薄々感づいてはいたわ」
私がそう答えると、マリア様はエラから目を離し、パッと顔を上げた。
私がマリア様を偽の聖女だと疑っていたのは、嘘ではない。とは言っても、気がついたのはついさっきだ。ライ、精霊が捕らえられていたのを見て、ピンときた。
マリア様の癒しの魔法は、精霊に無理やり魔法を使わせていたのではないか、と。確か、私たちの今いるこのゲームでは、聖女は別名、精霊の申し子とも呼ばれていだはずだ。それがなぜなのか。精霊と契約するからなのだと思い込んでいた私は、考えたことすらなかったが、ライがあそこまで消耗していたことを考えると。……もしかしたら、そもそも癒しの魔法は精霊のものなのではないだろうか。
癒しの魔法、と言っても、怪我や病気を治す回復魔法のことだけだ。この世界の人類は、回復魔法が使えない。だから、人々の怪我や病を治した回復魔法が使えたマリア様は、聖女と言われ、祭り上げられたのだ。
冬菜は言っていた。エラが呪いをかけられていた時、魔力を送り込み続けていたのだと。おかしくないだろうか。だって、この世界の人類に、魔力を送り込める人なんていない。もしいたら、エラが呪いにかけられた時に、冬菜は他の人にも頼っただろうし、魔国に呪いがかけられた時、あそこまで深刻に考えることはなかったはずだ。
私が魔力を送り込めるのも、聖女の力の一端なのでは。何の考えもなく使っていたそれも、回復魔法の一種なのでは……。だって、そうでしょう。魔力譲渡だって、相手の魔力を回復させているのだから……。
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