第24話
買い物もしてみたいところだが、残念ながらお金がない。今までは家に商人を呼んで、服やアクセサリーを買うくらいだった。せっかく解放されたのだから、前世のように1人で食材を選んだり、お金を計算して買ったりしてみたいものだ。
ふと果物や飲み物を見ていると、肩に座っていた火の精霊が話しかけてきた。
どうしたの、クロエちゃん。あ、喉乾いたの。
水分を多く含んだものばかりを見ていたからだろうか。彼女は少し心配そうな声をして私に聞いてきた。確かにそうかもしれない。風の精霊のくれた果物のおかげでお腹はそこまで空いていないが、今は春で暖かいので、喉は少し乾いている気がする。
水といえば、水をかけられたあの日を思い出す。あの日は確か、私が17歳で学園を卒業した次の日だった。あの日は卒業パーティーの日で、パーティー会場である学校の奥に向かおうとした途中だったのだ。それなりに暖かかったから、あの水にも耐えられたのだが。
私は水を出せないから、ここの飲み物を買うといいわ。
火の精霊が果物のジュースを取り扱う屋台の前まで飛んでいく。自分のポケットを探るも、やはりお金はない。
前世の高校の制服に変化した私のその服のポケットには何も入っておらず、今の私はお金どころか、ハンカチでさえ持っていなかった。
あ、そのままポケットに手を入れてて。
精霊さんは私の手を包み込むポケットに手をかざすと、手の中に何かが現れる。それは先程の転移魔法のように一瞬で、私は驚いて手を固まらせた。火の精霊はそんな私の姿を見てふふふと笑い、また私の肩に止まる。
お金よ。偽造したわけじゃないから安心して。
冗談まじりにそう笑う精霊はどこか嬉しそうだ。それは、まるで初めてお金を使う子供のように。
このお金はね、五大精霊の次に力を持つ火の精霊、さっきのあのお方にもらったの。
ウキウキとした様子で話す彼女は本当に楽しそうで、見ているこっちも笑顔になりそうだ。
先ほどまで私たちと一緒にいたその火の精霊は、たまに人間に見えるように自分に魔法をかけ、いろんな国に紛れ込んでいるらしい。お金はその時に手に入れたものらしく、ついさっき、こちらに転移する前に必要だろうと貰い受けたそうだ。必要な時に魔法で出してくれるらしい。少し申し訳ない気もするが、ここはありがたくいただいておくとしよう。
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