第64話
王子様は、近くの部屋にいると言い残し、部屋を出て行った。女性しかいないから気を遣って部屋を出てくれたのかな、なんてことをぼーっと考えつつ、私は彼を見送った。
「雪、菜……」
気まずそうに私に手を伸ばす冬菜の手をぼんやりと見つめながら、私は後悔の海に呑まれていく。
やってしまった。結局あの時は何もなかったからよかったけれど、危険なことをしてしまった。
エラのことばかりじゃない。誰かが行かなくてはいけないものではあったけれど、私だって愛されているのに。冬菜が、エラが、ゼラ達が、スィーが。私のことを心配してくれると、わかりきっているのに。私に何かあれば、悲しんでくれるとわかっていたのに。
「雪菜」
「お姉ちゃん」
冬菜とエラが私の手を片方ずつ握って、優しそうに笑っていた。穏やかなその瞳は、私の心を安心させれくれる。
「大丈夫。雪菜は私たちのためを思ってやってくれたのでしょう」
冬菜は私の肩を抱き寄せて、耳元で静かな声でそう言った。エラは私の腕にしっかりと抱きついている。
「ありがとう、お姉ちゃん」
泣きそうだった。こんなに優しく慰められるなんて、本心かどうかを疑わない言葉なんて、いつぶりだろう。
嬉しかった。まるで自分が悪くないかのように錯覚してしまうこの感覚は、いつぶりだろう。
「……うん、ありがと」
私は何とか笑ってみせた。無理をしたのではない。安心して欲しかったから。心配させてしまったお詫びに、心配してくれたお礼に。
しばらくすると、スィーから念話が入った。頭の中でいきなり声がする現象にも、だんだん慣れてくる。
ごめん、ユキナ。人間の女の人、見つけられなかった。
その声は少し苦しそうで、申し訳なさそうで。また魔力が足りなくなっているのかもしれない。見つけられなかったと言うことは、もう城の中にはあの女の人はいないのかもしれないし、ゼラ達に転移魔法で送ってもらえれば、安全にスィーのもとまでいけるだろう。
捜査してくれてありがとう。そっちに今から行くね。
唐突に現れて護衛の人たちは驚かないだろうか。謎の魔術師ということになっているスィーのせいにしてしまえば、まだ信じてくれるのかもしれないけれど。
わかった。待ってるね。
スィーの返事を確認すると、私は3人に声をかけた。
「私をスィーのところまで送ってくれる」
ゼラ達はうなずいて私に近づいてくる。3人を掌の上に乗せると、見える景色は一瞬にして変わった。
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