第146話

 ただ、彼は言っていた。あの日自分に寄り添ってくれた少女に恋をし、精霊王になり、少女の暮らしやすい世界を作ることを誓ったのだと。属性を持たない彼は、どれかの属性に偏った意見を出すこともなく、ある程度力を身につければ、王になるように皆から望まれたらしい。

 属性を持たぬのは、精霊としてまれなこと。それゆえの体調不良に苦しむ彼に、寄り添い続けた私は、どういうことか彼に好かれてしまったらしい。

「私はあなたを愛していないかもしれないのよ、ハク」

 かも、というのは、私にも自信がないからだ。だって、幼少期に見た、あの白く美しい精霊にずっと焦がれ、会いたいと思っていたのは、隠しようのない真実なのだから。

「では、悩んでください。トウナと共にいるために、私を利用してもいい。あなたを失うことに比べたら、愛されないなんてその程度、耐えられます。あなたの答えを、あなたが死ぬその直前まで待ちましょう」

 私に敬語を使う変わった精霊王は、私の体を綿でも扱っているかのように、潰さないよう、優しく扱う。私はそっと目を閉じた。今はただ、この温もりに溺れていたかったから。


 互いを背もたれにしながら、私たちは自然に包まれていた。互いの手を握って、まるで2人で一つだったかのように。

「おわった、のね」

 相棒がぽそりとつぶやく。まるで魂が抜けてしまったようなその声は、私の心と同じだ。

「私、悪い母親よね。娘を守るどころか、復讐さえできなくて」

 顔は見えないが、泣いているのなんてすぐにわかる。何年一緒にいると思っているのよ、冬菜。

「もう長く生きてきた私からすれば、子供のやったことのようにしか見えなくて……。いけないとわかっているのに、つい甘くなってしまうのよ」

 私は静かに首を振った。敏感な彼女はすぐそれに気がついて、私の方を振り返る。

「復讐なんか、しなくていいわよ。だって、のちのちあなたや、エラちゃんの立場が悪くなっても困るもの」

 言い訳程度に思ってくれていい。それでも、そう思うしかないのだから。

「それと、もう一つ訂正よ、冬菜」

 背中越しにあった目は、疲れ切った目をしている。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

「終わったんじゃないわ。始まったのよ、冬菜」

 まだまだ長い人生。することはたくさんあるんだから。ねっ、冬菜。

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悪役令嬢、まさかの聖女にジョブチェンジ!? 空月 若葉 @haruka0401

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