第95話
ガクガクとゆさぶられて目を覚ます。誰かに掴まれた肩は、強いその圧にすっかり怯え切ってしまっていた。私はまだ寝ていたいという体を叩き起こし、目を開けた。霞む目を擦り、目の前にいる誰かを見上げる。
「雪菜。大変、大変なのよっ」
どういう意味なのかはわからないが、私の肩を揺さぶっていた人物が冬菜だということは確認できた。大変、大変と繰り返す冬菜の顔は青ざめ、手は震え、緊急事態が起こっている事を伝えている。
「どう、したの……」
一旦冬菜を落ち着かせなければ、詳しい話も聞くことができなさそうだ。寝起きでうまく頭の回らない私は、体を起こして冬菜に尋ねた。
「あの子が……あの子が切られちゃうっ」
あの子……切られる。一瞬理解の追いつかなかった頭も、次の瞬間にはわかっていた。あの子。木の精霊さんのことだ。御神木が、木の精霊さんが切られる……。
御神木が切られるとなれば、町はざわついているのかと思えば、全くそんなことはなかった。いないのだ。外に出ても、町には誰も。どうやらもうすでに木のもとに駆けつけたらしい。
私は着替えてから来るように冬菜に言いつけられたのだが、そんなことは気にせずに冬菜に続いて外に飛び出した。昨日あのまま眠ってしまったから、どうせ寝巻きではないのだし、多少皺がついていても仕方がない。というより、構わない。そんなことより、木の精霊さんの方が大切なのだから。
私は魔法で自分の体を強化し、走った。慌てているにしては、よく頭が回っている方だと思う。先ほどまではあんなにぼーっとしていたのに、人間何かあった時は覚醒するものなのだろうか。
焦りが心を満たしている。切られる。切られてしまう。木が切られてしまったら、木だけでなく繋がっている木の精霊さんまで消滅してしまう。それだけはなんとしても避けなくてはならない。
どうして。どうしてか。大切だからかな。でも、昨日あったばかりなのに。冬菜達の悲しむ顔を見たくないからかな。それもなくはなさそう。でも、一番はやっぱり自分のため、なのだろう。失って悲しむ事を避けたいから。悲しむ誰かを見て、後悔したくないから。結局どんな理由だって、自分のために繋がっているのだと、私は走りながら呑気に考えていた。
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