第94話

 あっという間に日は暮れていく。だんだん赤く染まる空は、そろそろ夜が来る事を告げていた。

 夜は危険だ。フゥもいるし、腕に自信がある者が多いから。そうやって油断している者に闇はやってくる。何か危険なことに巻き込まれてもおかしくないのが、夜だ。

 エラもいることだし、そろそろ宿に戻ろう。そう私が提案すると、みんなは黙ったまま頷いた。

 ゼラたち3人は御神木、木の精霊さんと残るというので、私達は宿屋に向かって歩き出した。ゼラ達は精霊だし、誰かに狙われる可能性も少ないので問題はないだろう。むしろ、精霊の森と同じように自然のあるそこは、あの豪華な宿よりも落ち着くのかもしれない。

「じゃあ、おやすみなさい。何かあったら念話で話しかけてね」

 念のために私がそういうと、ゼラは自信満々に胸を張って笑った。ゼラの笑顔をみると、なんだか安心できる。

 少し暗くなってきたので少し早足で歩くと、あっという間に私たちの借りた部屋に到着した。それぞれのフカフカなベッドに飛び込むように座ると、一気に眠気が襲ってくる。こんなに眠いと感じたのはいつぶりだろうか。今日はなんとなく疲れた。マリア様のことも思い出してしまったし、この少し恥ずかしい服もそうだ。けれど、そう考えると、悪いことばかりでもなかったなあ。

 私は夕食も取らないまま、眠りの海へと潜っていった。


 夕食を食べて、お風呂に入って。エラの寝かしつけもしないと。私は少し疲れを感じながらも嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねる我が娘を見ていた。

「雪菜、そろそろ夕食を……」

 雪菜の方を振り返るも、返事は返ってこない。どうやら親友は寝てしまったようだ。フゥが唇に人差し指を当ててこちらを見ている。寝かせておいてあげよう、ということだろうか。

 確かにそうね。私は小さく頷くと、エラにも静かにするように言って聞かせた。雪菜は私と違って人間なのだし、疲れるわよね。

 ……人間、ね。私、なんだか雪菜と遠い人物になってしまったよう。ああ、もう人物、とは呼べないのかしら。

 私は小さくため息をつくと、エラの手を引き、フゥの首根っこを掴むと、静かに部屋を出た。お風呂は明日入って貰えばいいし、食事は朝しっかり取ればいいわよね。

 お休みなさい、雪菜。いい夢を。

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