第7話

 けれどもそれから10年。私が15歳になる年に、おかしな噂が持ち上がった。私は確証がなかったがために、腕に浮き出た花の模様のことも、精霊らしきものを見たことも誰にも話していなかった。その選択が正しかったのかはわからないが、そのおかしな噂は私の心を不安に陥れた。

 なんと、聖女が見つかったというのだ。古来より聖女は精霊と契約し、人々の体と心を癒す存在とされていて、世界で何か問題が起こる時に神様によってこの世界に送り込まれる存在らしい。

 その聖女の名前は、マリア。平民のため家名はなく、捨て子だったという彼女は人々の傷や病を次々に癒して、治して見せた。その癒しの術こそ、聖女である証拠だと人々は彼女を持ち上げ、貴族の学園に入学させるに至ったのだ。他の国に情報が漏れないよう、魔力が高いからという表向きの理由で。おそらく隠し切れてはいないが、どの国も様子を見るようで手を出してくる国はなかった。聖女の力は国同士で取り合いになり、戦争が起こるということは昔からよくあった。今争いになっていないのは、この世界も成長したからなのであろう。

 けれど、この世界に違和感を覚えるものが1人いた。それが私だ。聖女は私なのに。確信は持てていなかったが、どこから湧き上がってきたのか、私はそんな自信を胸に抱いていた。けれど、私は誰にも何も言わなかった。言うべきではないと思ったのだ。今名乗りを上げれば、確実におかしな子としてみられることになる。場合によっては聖女を語る反逆者としてみられてもおかしくない。それがあまり頭のよくない私でもわかるほどに、聖女マリアの力は、名前は絶大だった。


 だから、私はマリア様のことをあまりいいふうには思っていなかった。けれど、どんな方法を使っているにしろ、彼女はたくさんの人々を癒してきた希望の光だ。だから私は、たとえ自分の婚約者と彼女が仲良くしようが何も言わなかったし、ただ睨むだけだった。それなのに。

「まったく、大変なことになったものだわ」

けれど、今更そんなことを言ってもどうしようもない。森は私の前に堂々と立ちはだかっている。まるでここは通さないとでも言うように。

 これからは1人でなんとかしなければならない。安心して過ごせるのは、まだ先だ。それでもいい。1人でも、頑張ると、自由に生きると決めたから。

「聖女として、やり直して見せるわ」

私は1人空に向かって宣言をしてみせると、ニヤリと笑った。

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