　フゥはこの町の人と仲がいいらしく、たくさんの人がフゥの名前を呼び、笑いながら手を振り、過ぎ去っていく。中には近くまで走り寄ってくる子供もいて、フゥはかなり慕われていることが見て取れる。

　町は大勢の人で賑わっていて、たくさんの笑い声が聞こえてくる。出店からはいい匂いがし、興味深い商品を売ってる店もあった。

　一見、元気な町に見えるこの町も、気がかりな場面はたくさんあって。小声でひそひそと話し合う女性たち。不安そうに笑う子供。釣り上がった目で何かを睨む男性。隅で隠れるように湧き上がる不安は、町を包み込んでいた。

「ほら、宿屋が見えてきたよ」

　フゥは急に立ち止まって大きな建物を指さした。煌びやかに装飾されている大きなそれ。確かにこれは宿屋だが、さすがに……。

「……フゥ」

「なあに、姉さん」

　冬菜も同じことを思ったらしく、怪訝そうな顔で宿屋を見上げている。宿屋っていうより、ホテルみたいだけれど。

「お金、あなたが出しなさい」

　流石に冬菜も気がひけるようだ。一泊泊まるだけでもかなり高そうなそこは、おいでとでもいうようにキラキラ光っている。

「はーい」

　フゥは頭の後ろで手を組み、なんの文句もなさそうに笑っている。フゥはそれなりにお金を持っているのか、かなり余裕が見られる。

「じゃあ、入ろー」

　走って建物に入っていくフゥに、私達は少し呆れながらフゥについて走った。

　中はキラキラ光っていて、エラと冬菜は眩しそうに目を顰めた。貴族だった私からすれば見慣れた光景だが、2人からすれば豪華すぎるのかもしれない。

　貴族ではなくなった今、こんなところに泊まるなんてかなりの贅沢なのだろうが……。フゥ、お金は大丈夫なのだろうか。

「4人部屋で、とりあえず一泊でお願いしまーす」

　フゥは明るげに笑……え、ちょっと待てよ。

「え、4人部屋なの……」

　慌てて話しかけると、3人は何かおかしいかとでも聞きたげに私を見ている。まるで私がおかしなことを言っているかのようだ。

大丈夫、精霊はそんなに性別を気にしないのよ。

　頭の中で冬菜の明るい声が響く。いやいや、私は気にするんですけど。

　フロントに立つ女性の微妙な顔だけが、私を冷静にさせてくれた。

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