第132話

 呪いが解けても、まだ安心することはできない。足りない魔力を注ぎ込んだり、癒しの魔法をかけたり、することは盛り沢山だ。冬菜はまだ呆然としているので、私が指示を出して手伝ってもらう。魔力のほぼ無い彼に、魔力を継ぎ足してもらうだけでも、かなり助かる。

 魔力は足りなくなるだけでも気分が悪くなったり、体調を崩してしまうのに、今の彼には魔力がほとんどない。体を構成するだけで精一杯のようだ。そんな少年が抱えている何かは、底が知れない。

「さあ、これで大丈夫なはずだけれど……」

 あまり一気に魔力を与えすぎても、こちらの魔力がなくなってしまう。生命維持に申し分ない量を与えたところで、私は少年から手を離した。

 癒しの魔法により顔色も戻り、動くことのできるようになった少年は、体を起こし、何度も手を握ったり開いたりしていた。不思議な感覚を味わうように、噛み締めるように、少年は動くようになった自分の手を見つめていた。

「大丈夫、ライ」

 心配そうな目で冬菜が彼の肩を支える。少年は少しぼうっとしていて、返事をするだけの気力がまだないようだ。

 私たちの魔法では体を癒すことはできても、心を癒すことまではできない。聖女の力を使えば可能なのかもしれないが、心までもが作り替えられてしまったら、それはもう本人ではない気がする。私のただの勝手な考えではあるが、精神を下手に触って何かがあっては大変なのだ。

「彼は、冬菜の知り合いなの」

 落ち着いてきた2人を前に冬菜に尋ねる。すると冬菜はこちらを見ないまま、小さく頷いた。

「そうよ。彼は光の五大精霊、ライ。私の友人で、フレンの恋人でもあるわ」

 フレンの恋人は彼、ライだったのか。2人の見た目を考えるとそこまでお似合いではないかもしれないが、ライの内面を知らない私には、なんとも言えない。

 ライが精霊だと仮定すると、名前を名乗れる時点で五大精霊なのかな、とは思っていた。ライという名前も、ライト、光から来ているのだろうし。

 予想は当たったわけだが、そうなると最大の疑問はどうして彼が捕まったのかだ。大きな力を持つ五大精霊なら、先程の冬菜と同じように抵抗ができただろう。それなのに、捕まって、こんなになるまで……。

 それほど、大きな力をマリア様が持っているのか、もしくは……。

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