第133話
ライが急にガバッと立ち上がる。その表情は焦っていて、今にも飛んでいってしまいそうだ。冬菜が手を掴んで必死に阻止するも、それを振り払おうとライは必死だ。
ライは今、自分を守るための魔力がない。魔法だって何にもかかっていない。だから普通の人間からは見えないけれど、それは無防備な状態でもあるということだ。何が何でも、理由がわかるまでは行かせるわけにはいかない。
「待ってください。せめて、どこに何をしに行くのかだけでもっ」
私もライの足にしがみつき、何かから逃げるように暴れるライを落ち着かせようと試みる。それでも彼は逃げ出そうとするのをやめず、私たちの手を振り解いて走り出してしまった。
すぐに後を追いかける。回復して何の考えもなしにすぐに逃げ出すなんて、もう一度捕まえてくださいと言っているようなものだ。このまま行かせるわけにはいかない。
冬菜にお願いし、ライに防御の魔法をかけてもらう。これで少しはマシになったはずだが……。
冬菜、ライはどこに向かっているの。
そんなの私がわかるわけないじゃないっ。
全くその通りだ。けれど、向かった先はわからないが、向かった理由は何となく想像がついている。先程治療をしながら考えたのだ。
どうして力のあるはずの五大精霊が捕まり、あんなになるまで疲弊しきっていたのか。考えられる理由は、今のところ3つ。
1つ。不意を疲れて抵抗できなかった。この可能性もなくはない。
2つ。罠、もしくは攻撃が先程のものよりかなり強力なものだった。この線は薄いだろう。聖女である私だって、五大精霊を簡単に捕まえるなんてことはできない。それは、マリア様が本物の聖女だったとしても同じことだ。
3つ。今のところ、この線が一番有力だ。五大精霊という大きな力を持った精霊が捕まってしまった理由。それは……。
「みんな、大丈夫っ」
光の届かない地下の奥へと飛び込み、ライは何者かに声をかけた。みんなと言うからには、そこには何人がいるのだろう。
ライに続いて私たちがたどり着いた先にいたのは、何人もの小さな精霊達が閉じ込められた箱のある、小さな部屋だった。
ああ、最悪な予感が当たってしまった。人質。そんな最悪な言葉が、私を泥沼のように、不幸の中に引き摺り込んでいった。
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