第134話

 ガラスケースの箱からは、黒い魔力が感じ取れる。呪いの類だ。おそらく、マリア様のかけたものだろう。恐怖の塊のようなその箱に、精霊達はぎゅうぎゅうに押し込められていた。

 綺麗に中が見えるその箱。怖がる様子を観察するためにガラスを使用したのだとしたら……。ゾッとする話だ。

「今、呪いを解きますね」

 安心させるように優しい声を意識しながら話しかけると、精霊達は涙目になりながらこちらをみて頷いた。いつもの少し変わった、閉じ込めるためだけのその呪いは、私の魔力に暗く絡みつく。気味が悪い。けれど、マリア様の手先として拘束するためだけに生まれたその呪いは、ある意味可哀想にも思える。

「さあ、これで大丈夫」

 私が精霊達の閉じ込められている箱を開けると、精霊達はゆっくりと飛び上がってきた。素早く飛ぶ元気はまだないようだが、ライほど魔力は消耗していない。

 閉じ込められていた精霊は、10人以上はいそうだ。ライは安心してその場にへたり込み、飛び交う精霊達を本当に嬉しそうに眺めている。

「ごめんなさい、ライ様。私たちが人質に取られてしまったせいで……」

「抵抗されたのですね。魔力が少ないです」

「あの女、魔力が底を尽きない程度にずっと吸い上げ続けて……。一体、何に使っているのでしょう」

 精霊達は次々にライのそばへ寄って行き、心配そうに声をかける。中には、自分たちを閉じ込めた者へ恨みの言葉を述べるものもいた。

「悔しい話だけれど、私たちじゃあの女には叶わないのよね」

「そうよ、あの女、悪い意味でテンサイなのよ」

 天災に例えられるほど、その女というのは強いのか。女とは間違いなくマリア様のことだろうが……。

 ……あれ、ちょっと待って。今、エラはゼラ達と一緒にいるけれど……。

「ねえ、冬菜」

 助けられた、呪いから解放された喜びを分かち合う冬菜に声をかけると、私の暗い表情から何かを読み取ったのか、その顔から笑顔が消える。

「エラは、今ゼラ達と一緒にいるけれど……」

 マリア様がエラを狙っている張本人で、マリア様が小さな精霊なら簡単に捉えられる力を持っているなら……。

「ゼラ達は、名前がないから、精霊の中ではそこまで強い方ではないのよね。それなら、この子達と同じくらいと言っても過言ではない……」

 冬菜の顔が一気に青ざめていく。この子達が何人も捕まってしまっている。それはつまり、マリア様にそれだけの実力があると言うことだ。と、いうことは、もしマリア様がエラを狙っているのだとしたら、ゼラ達に守り切ることはできないのでは……。

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