第12話
私が甘い果実の虜になっていると、精霊達は木の根に腰掛けて話し始めた。手で口元を隠し、その顔から笑みは消えている。
「気づかれてるかな」
「気づかれてるでしょ」
「そうだよね」
ひそひそと、まるで私には聞こえてはらならないかのように、3人は話していた。声は聞こえているが、口元を隠しているのも何を話しているのか悟られないためのものなのだろう。
……誰に何を気づかれているのだろうか。何か気が付かれてはまずいことでもあるのだろうか。考えてもわかるはずもなく、不安ばかりが募る。
「何を話しているの」
精霊の事情に疎い私にはわからない。私はそう開き直り、素直に精霊達に問いかけた。すると、3人は揃って困った顔をして顔を見合わせた。何か問題があるのだろう。私は笑顔を作って返事が返ってくるのを待った。3人はまた内緒話を始める。私に話してもいいものか相談しているのだろう。精霊達が私の方をじっと見る。話すのをやめた3人は、なんとか答えを見つけたようだ。
「わかったわ。話すわね」
火の精霊が私の方へと向き直る。何か大切な話なのかもしれない。気まずそうな顔で私の方へ体を向けた精霊の雰囲気から、それは感じ取れた。
「力のある精霊には、森に入った生き物の気配が感じ取れるの。私たちにはできないけれど、それができる精霊は少なくないわ」
ようするに、私がこの森に入ってきていることに気がついている精霊がいるかもしれない、と言うことだろう。それの何が問題なのだろうか。私がここにいると気づかれてはならない理由でもあるのかしら。
私が首を傾げていると、水の精霊が私の目を見ながら優しく笑って答えを教えてくれた。
「あのね、人間にも、他の生き物にも、もちろん精霊にも、色々な性格の人がいるでしょう……。だから、侵入者は排除しなければならないと言う動きが、少なからずあるのよ」
水の精霊は眉を少し顰めている。
排除。その言葉が重くのしかかる。彼女達が私達に対して排除しなければならないと思うほどの恐怖を感じると言うことは、私達は、私たちの先祖はそれなりのことをやってきたと言うことだろう。昔の話ではあるが、私達人間は差別をすれば戦争もしてきた。今でこそ国同士で平和を約束し、戦争をすることは無くなったが、未来は変えられても過去は変わらない。精霊達に恐れられても仕方がないだろう。
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