第122話

 冬菜は冷たい目で2人を見下ろしている。敵だとみなしたようだ。それは悲しい気もするが、仕方がないことのような気もする。

「エラのことは置いておいて、マリアサマのことについて話して」

 そういう冬菜はいつもの明るい笑顔に反して、水のように冷たい声で言い放つ。見下しているような、何かを諦めたようなその声は、私に僅かな期待も抱かせない。

 冬菜の声に反応して、ぼうっと何をみているのかわからない夫婦は、口を開いた。

「マリアは、我が家の長女で、あの子を除けばマリアしか、我が家には子供がいません。ですが、最近は王城にずっといるので、ほとんど会っていません……」

 確か、王城にいた兵達は、マリア様の態度が大きくなったと言っていたが、それは本当なのだろうか。どちらにせよ、それに関してこの2人から聞き出すことはできなさそうだ。家族には今までも本来の姿を見せていたかもしれないし、王城にずっといるなら、王城での様子など知らないだろう。

「続けて」

 カタカタと音が鳴る。何かが小刻みに震えている音だ。地震か、と一瞬身構えるも、私自身やものは揺れていない。震えているのは……目の前に座っている、2人だ。

「ど、どうかしましたか」

 声をかけるも、顔は俯き、返事がない。心配になり、顔を覗き込んで様子を伺うと、2人の顔色は真っ青だった。

 私は驚いて飛び退く。いったい、どうして急に。

 冬菜に助けを求めて振り返ると、冬菜も少し青ざめた顔で2人を見下ろしていた。私はどうすればいいのかわからず、ただ狼狽える。冬菜の方を何度見ても、拳を握りしめて震えているだけで、私の方を見ることはなかった。

「……話さなくていいわ」

 冬菜の発した言葉に、私は驚くと同時に、安心した。なぜなら、夫婦の顔色がみるみる良くなっていったからだ。その事実さえわかれば、何が起こったのかは何となくわかる。

 おそらく、2人が魔法に抵抗したのだろう。だから、体が震え、顔が青ざめたのだ。抵抗なんてしなければ、うまく情報も聞き出せたし、2人も苦しまずに済んだのに。

 そんなことを思っても、無駄なのはわかっている。辞めざるを得なかった冬菜の気持ちも、当然よく理解できる。

 昔、聞いたことがある。洗脳魔法に抵抗して、死んでしまった人間がいたのだと。魔法のせいで死んだわけじゃない。この魔法は、微妙に意識が残るからだ。つまりは、話したくない何かを聞かれれば、自害することもできるということなのだ。

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