第43話
音もなく、瞬きをした瞬間に、私達は見覚えのある森の前に立っていた。あの日私が馬車から下ろされた、あの場所だ。
「帰ってきたわね。何年ぶりかしら」
エラのそばを離れられなかった冬菜からすれば、久しぶりに故郷に帰ってきたようなものなのだろう。冬菜はとても懐かしそうに森を見つめている。
前世ではずっと一緒だった私達。私の知らない冬菜がいるのは、寂しいけれど仕方がない。これからまたできるだけ、一緒にいればいいのだから。
「雪菜。3人のあだ名、思いついた」
私がつけた愛称を冬菜とエラも呼ぶらしい。呼ばれ慣れた愛称で他の大切な人にも呼んでほしいというのは、よくある話だ。
「クロエちゃーん」
「ひさしぶりー」
森の奥から、何かキラキラした小さなものが、木々をかき分けて飛んでくる。
「2人とも、久しぶり」
2人と出会い、別れてからもう何週間は経っているはずだ。ひととき一緒に過ごしただけなのに、まるでとても仲の良かった友人にあったかのように、懐かしくかんじる。
「少し奥に入りましょう。誰か来るとは思わないけれど、誰かに見られたら厄介よ」
冬菜のその言葉に頷き、私達は森の中へと入っていった。
冬菜と私の話を、2人は不思議そうに聞いていた。実際、珍しいのだろう。私たちが転生者であることも話してしまったし、精霊が人間を娘にすることも、この世界では珍しいことだ。まあ、向こうの世界でも珍しいことだとは思うが。
「じゃあ、愛称をくれるのね」
「わあ、じゃあ、クロエちゃんの愛称は3人で相談しましょう」
3人は楽しそうに笑っている。私も浮かれていた。愛称をつけるほど仲良くなれる誰かができるなんて、思っても見なかった。昔に比べれば、今はなんで幸せなんだろう。それどころか、冬菜にだって再会できたし、エラのことも治すことができた。
エラはずっと部屋で過ごしていたため、外を歩き回るには筋肉量も足りなかった。けれど、魔力の補助もあってか、すぐに走り回れるようになった。エラと楽しそうに過ごす冬菜を見ていると、こっちも嬉しくなってくる。
「決めたよー」
「決まったよー」
「クロエちゃん、私達のも決めてくれた」
目を輝かせて問う3人に、私は少し自信がないものの頷いた。3人に合う名前をつけてあげられたかわからないのだ。
「じゃあ、言うよー」
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