第76話
ランについて行こうと少し早足で歩くと、大きな魔力の持ち主もどんどん近づいてくる。
「姉さーん」
男の人の明るい声も聞こえてきて、私達はあたりを見渡した。森の奥から出てきたのは、薄緑色の髪をした1人の青年だ。
「姉さん、みんな。あ、初めましての人もいるね」
姉さんとは、どうやら冬菜のことらしい。エラが少し苛立ちを覚えた顔で、その青年を見ている。
可愛らしくも見えるその青年は、太陽のような笑顔でにこにこと笑っていた。その笑顔は、私に全く警戒心を抱かせない。
「よろしくね、ええっと、2人は」
エラと私を交互に見て問いかけた彼は、私とエラに片方ずつ手を差し出している。握手を求めているのであろうその手は、まるで人間のように自然な行動だった。精霊界にも、握手というものは存在するのだろうか。
手を握ろうと、私も手を差し出すと、それを遮るように冬菜の手が伸びてきた。バシン。少し大きな音が森の中に鳴り響く。
「いたっ」
「全く……人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るものよ」
彼につられたように元気に怒っている冬菜は、眉を歪ませて怒鳴るようにそう告げた。この世界に来て、冬菜はかなり母性を育んだようだ。私の知らない冬菜をみれるのは、嬉しくもあるが、少し寂しくもある。
「ごめんなさーい」
青年の行動や声は、年相応のものに見える。けれど、冬菜の少し後に生まれたという彼は、冬菜が100年ほど前に生まれたそうだから、少なくとも数十年は生きていることになる。おお、見た目や行動に伴わない歳ね……。
ラン達はくすくすと笑っている。どうやらこの風の五大精霊とは、3人とも親しいらしい。この性格なら、誰に対してもそうなのかもしれないけれど。
「僕はフゥって名乗ってるよ。よろしくね」
スィーといい、フゥ様といい、精霊達はとにかく自分の属性が大好きなのだろうか。スィーはおそらくすい、水のことだろうし、フゥもおなじくふう、風のことだろう。結構そのままだな。
「雪菜です。こちらはエラと言います」
私がエラの名前もついでに紹介しておくと、エラは小さく頭を下げた。
「あ、敬語とか気にしなくていいよ。俺軽いのが好きなんだ」
まあ、そんな気はしてたけど。精霊って、身分とか関係なしに仲良くするのが好きなのかな。
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