第22話

 この姿に変わったのはいいが、身分証はどうしようか。この世界にはいろんな色の髪の人間が溢れているから、黒髪だから何かを言われるということはないだろうけれど、だからといって身分証のない怪しい人間を国に入れてくれる訳がない。

「あの、どうやって国に入りましょうか」

 悩んだ末に答えの出なかったその質問をぶつけると、2人は何を言っているのかがよくわからないとでも言いたげに微笑んだ。

「どうやってって……転移魔法は使わないの」

 私の肩にとまっている火の精霊が当然そう言うも、私は訳がわからなかった。それをみて、小さな火の精霊は、何かを思い出したかのように飛び上がる。

「そっか、人間は転移魔法はあんまり使わないのかな」

 転移魔法。この世界ではかなり昔に廃れてしまった魔法だ。なくなってしまった理由については諸説あるが、国に不法入国できてしまうことが原因だという説が有名だろう。

 転移魔法には行ったことのない場所には入れないという制限もあるが、それでも危険な魔法であることには変わりない。犯罪を犯したような危険な人物も、検査されることなく他の国や、それどころか他の人の家にまで入れてしまうのだから。ドアも門も、転移魔法の前では無意味だ。

 だから人々はこの魔法を危険視し、その魔法を操る方法が知れ渡る前に封印したのだ。けれど、他の国に干渉しない体制を取ってきた精霊達にとっては、転移魔法は当たり前に使われているものなのだろう。

 けれど、転移魔法を使ってはならないという法律はない。転移魔法を使える人間や獣人などはいなくなってしまったのだから今となってはそのような法律は必要なくなってしまったのだろう。

「私は使えませんが……」

 私が不安げに2人の方を見ると、2人は任せなさいと言わんげに胸を張った。

「大丈夫、私達精霊はみんな使えるもの。この子は人間の国に入ったことがあるから、送ってくれるわよ。ね。」

 小さな精霊がこくこくと可愛らしく頷いた。


 そうと決まれば話は早い。まず火の五大精霊の元へ行けばいいだけだ。精霊は魔力の気配に敏感だから、同じ精霊が近くにいれば相手の位置もわかるらしい。転移魔法のこともあり、私は友達の火の精霊と共に、火の五大精霊のところへと向かうことになった。五大精霊の次に力を持つという彼女は、何かあった時に精霊たちを守るためにここから離れられないらしく、少し残念そうに笑っている。

 火の五大精霊の抱えている問題を解決すれば、火の五大精霊はこの森に帰って来れるかもしれない。そうしたら、精霊たちの不安も少しは無くなるだろうし、もしかしたら私の後見もしてくれるかも。私も結局は自分勝手な人間だと苦笑しながら、私は森を旅立った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る