第65話
不安な気持ちが拭えないまま、時間は過ぎていく。危険なことをしてしまった後悔もそうだけれど、少しだけ見えたあの女性の姿。あの髪の毛の色。茶色味がかった黒髪はマリア様以外に見たことがない。
前世では日本人だったし、飽きるほど見てきた黒髪だが、今世ではあまり見ない。なぜ存在しないのかはよくわからないが、前世の世界でどうして生まれつき傾向ピンクの色をした髪を持つ人はいないのと聞くようなものなのだろう。
この世界の髪色は、かなりカラフルな方で、さまざまな髪色が存在している。さすがゲームの世界だ。最近はゲームの中にいるのだということを忘れてしまいそうになるが、案外何も問題はなかったりする。
今、私達はスィーのいる部屋に集合している。エラの件も含め、海の汚染問題についての作戦をねるためだ。私たちが急に姿を表したり消えたりすることにも、兵達はもう動揺を見せなくなった。
そこには、王子様の姿もあった。いまだに名乗らない王子様は、不機嫌そうに、スィーの椅子の横に用意された豪華な椅子に腰掛けている。
思えば私達も王子様に名乗っていないな。作戦会議の前に自己紹介くらいしておくべきだろうか。私は貴族だったからこの上目線のすぎる王子様の名前くらいは知っているが、冬菜達は縁のない人だ。
「そういえば、君たちお互いの名前は知ってるの」
スィーも気が付いたのか、何気ない話題を振るように首を傾げた。
「自己紹介、したら」
自分はする気はないのだろうスィーは、にこにこと元気な笑みを浮かべていた。今は私と精霊達で魔力を譲渡し続けているので、スィーも少し楽なのだろう。
「……イーサン・ユアリカだ」
以上、とでも言わんばかりに王子様もといイーサン様は、踏ん反り返っている。
「雪菜です」
イーサン様が名前しか言わないのなら、私も余計な情報は漏らさないでおこう。正体をバレにくくするためにも、その方がいい。
「冬菜です」
「エラです」
冬菜とエラはじとーっと重い視線でイーサン様を見ている。2人もイーサン様の態度が気に食わなかったのだろう。
「はい、じゃあ本題に入ろうか」
スィーはまるでその自己紹介が当たり前のように進めた。スィーはもうイーサン様の態度に慣れてしまっているのかもしれない。
エラに呪いをかけた女性を探すときも、結局見つけることはできなかったが、2人の連携は素早かった。2人は互いに信頼しあっているのだろう。私と冬菜のように。
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