第114話

 馬鹿馬鹿しい。そんなこと、あるわけがない。と、思いはするのだが、冬菜ならやりかねない……。

 まずは情報収集をするところからだろうに、いきなり乗り込むなんて。確かに、エラに呪いをかけた疑いのあるマリア様がいるなら、ここだろう。彼女は私を押しのけて、この国の王子アレグザンダー様の婚約者となっているはずなのだから。

 私は精霊の森に行ったから、マリア様が婚約者になられたと聞いたわけではないのだが、ゲームではそうなっていたから、おそらくそうだと思う。マリア様は平民だけれど、それと同時に聖女様なのだから、王子様の婚約者となるのになんの問題もないだろう。

「どうしてここに来たの。何かここにヒントでもあるの」

 エラは相当深く疑問に思ったのか、必死になって冬菜に問いかけている。それに対して冬菜は、首を傾げた。

「え、なんとなく」

 ……冬菜って、見た目に反して思ったよりもポンコツなところがあるのよね。まあ、そんなところも可愛いのだけれど。

「えー、じゃあ、どうしてこ」

「しっ。誰か来るわ」

 魔力探知に何かが引っかかり、私と冬菜は同時にエラを隠した。けれど、エラだけ隠してもこれでは見つかってしまう。灯りを消して、何か紛れられる魔法を使わないと。

「任せて」

 まだ反応は少し遠い。今すぐ灯りを消せば間に合うだろう。ふっと光が消える。一気に暗闇に包まれた私は少し目眩がしたのだが、なんとか持ち堪え、冬菜とエラの背中を押さえた。

2人とも。認識阻害の魔法をかけたから、もう大丈夫よ。

 頭の中で冬菜の声が響き、私の心は安堵と緊張が入り混じる。足音が聞こえてくる。それはどうやらこちらに向かっているようで、だんだんと音は大きくなっている。

「……いへんだよなー」

 口を閉じ、静かに耳を澄ませれば、話し声が聞こえてきた。それと同時に、淡い光が見える。

「そうだな、大変だよな。失礼な話だが、最近の聖女様はどうもなあ」

 どうやら2人の男性が話をしながら歩いているらしく、カシャンカシャンと何かがぶつかり合うような音も混じって聞こえてくる。この音には聞き覚えがある。兵士の鎧の音だ。

「王子様の婚約者になった途端、態度がでかくなってさ。とてもじゃないが、印象悪いよなあ」

 お互いの顔がほとんど見えない中、私達は顔を見合わせた。

 噂は噂だ。けれど、あんなに優しかったマリア様がどうして……。信じられない。嘘、よね……。

 一瞬だけでもそう思ってしまった私は、慌てて首をブンブンと横に振った。マリア様は聖女じゃないかもしれないのよ。どうしてだかなんて、兵士たちの嘘かもしれないなんて、そんなのまだわからないじゃない。

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