第138話

 マリアは悔しいのか、焦っているのか、私を鬼のような形相で睨んでいる。子供のように癇癪を起こす彼女は、実際の年齢には似合わない。

「さっきから何なのよっ。魔力源も消えちゃうし。どこ言ったのよ、光の五大精霊も、私のかけた呪いもっ」

 怒りに狂った彼女は、私に憎しみを向け、叫ぶことしかできない。どんどんと地団駄を踏み、拳を強く握りしめる。

「洗脳の呪いも、維持できなくなっちゃうじゃない」

 マリアが呪いを吐くようにぽそりと呟いたその言葉を、私は聞き逃さなかった。洗脳の呪い。呪いとは、不幸を呼ぶものなら何でもありなのだろうか。洗脳をかけられた人がいる。

 そもそも、呪いはこの国の、世界の禁忌だ。使い方も伝わっていないのに、何がマリアにそんな力を与えたのか。

 私はすでに、1つのキーを握っていた。それは小さなものだが、確かに鍵の形をしている。扉の鍵穴にはまるのかもわからない、小さな鍵。私は、扉に向かって手を伸ばした。

「……そもそも呪いを使えるようになったのは、エラちゃんの存在からかしら」

 マリアがはっとしたような顔をして、顔を上げたと同時に、鍵がはまり、鍵の空いた音がした。マリアが私を憎しみの目で見ながら、舌打ちをつく。

 私がそう思ったのには、一つ理由がある。精霊が周りにいることが多かったから、気にしたことはなかったのだが、エラは魔力量が他の人よりも多いのだ。聖女と並ぶほど多くはないが、それでも普通の人と比べたらそれなりに多い方だろう。たまにいるのだ。天才と呼ばれる、それは。

 きっと、マリアの両親はエラを贔屓するとでも思ったのか、実際に贔屓したのか。それはわからないが、幼いマリアが妹を恨むには十分な理由だろう。だから、マリアは妹に魔力を奪うことができる呪いを生み出して……。

 あれ、彼女、何をしようとしているの。どうして下に魔法陣が。真っ黒な魔法陣に包まれて、マリアは、彼女は何かをしようとしている。

「まずいわ、転移魔法よ」

 転移魔法、人間達には失われた魔法を、どうして彼女が……。

 マリア様がエラをドンッとつきどばす。それを受け止めて顔を上げれば、マリアは闇の中に消えていく最中だった。だめだ、間に合わない。逃げられる……。私はエラを冬菜に預けると、魔法陣の中に飛び込んだ。

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