第92話

 ヒラヒラした慣れないワンピースを着ながら、私達は町を歩いていた。門に向かって歩く私達。3人はご機嫌に進んでいく中、私だけは恥ずかしさと戦っていた。絶対に嫌、と言うほどの恥ずかしさでもないのだが、どうにも慣れない。冬菜とエラが楽しそうにしているなら仕方がないかと思う反面、どこか抵抗している自分がいる。開き直って仕舞えば楽なのになぁ。

 門に差し掛かると、私達は誰にも話しかけられることなく門を通り過ぎた。門の近くに立っている番人も、周りの人々も、まるで私たちのことに気が付いていないようだ。

 実際、そうなのだろう。おそらくこれが冬菜の言っていた魔法で。冬菜とフゥはいつもこんな思いをしていたのかと思うと、なんだか少し寂しい気持ちになる。けれど、精霊に生まれたからには、人間達に紛れるためにはそうするしかないのだろう。逃れられない、仕方のないことなのだ。

 門を通り越すと、すぐに木は見えてきた。淡くだが光っている木の精霊さんの姿は、遠くからでも確認することができる。

 少し足早に近づくと、ゼラ達の姿も見えてきて、楽しそうにおしゃべりをしているのが確認できる。もうそんなに仲良くなったのかと思うほど、4人は楽しそうに話をしていた。

「みんなー」

 声をかけて手を振ると、4人とも手を振りかえしてくれた。その動作はぴったり揃っていて、まるで幼い頃からずっと一緒にいた親友のようだ。

 私達も前世ではよく同じ考え方をしたりして、周りから微笑ましいだのなんだの言われたものだ。親友でそこまで似るなんて、まるで漫画やお話のような話だが、実際にあった話だ。流石にもう、そんなことは起きないかもしれないけれど、あの頃はそれはそれで幸せだった。

「おかえりなさーい」

 ゼラは元気よく私たちの方へと飛んできた。フィーとランは来ない。おそらく、あまり木から離れられない木の精霊さんを気遣ってのことだろう。

「かわいい服ね、スノー。お揃いかしら」

 フィーは穏やかな様子で私の周りをクルクルと舞いながら尋ねた。私の中に恥ずかしさはもうあまりなく、私は堂々と笑う。振り返ると、エラも冬菜も嬉しそうに笑っている。やっぱりおそろいって、嬉しいし楽しいものだ。

「いいですね。お似合いですよ、ユキナさん。女の子という感じで」

 なんだか頬が赤くなる。舐められないために、大人っぽくすることばかり考えてきた貴族時代。もしかしたらこういうのも……あり、なのかな。

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