第130話

 音のしない地下への扉の方を振り返る。一旦この中に戻って、隠れたい気分だ。地下には危険なものもたくさん置かれているため、きっと誰もいない。兵士だってここには配置されていないくらい……で……。

 あれ、ちょっと待って。それなら、始め地下に転移したとき、どうして兵士がいたの。近寄ることさえよしとされない地下室。中に足を踏み入れることなんて、もってのほかのはずなのに。

……冬菜。気になることがあるの。一旦地下に戻らない。

 何か違和感に気がついた私は、大きく待ち構える扉の方へと戻った。冬菜は不思議そうな顔をして私の後についてきてくれている。私にはこの厳重すぎる扉の奥に、何かが隠されている気がしてならなかった。


 厳重すぎるといっても、冬菜達精霊からすればなんでもない、ただ鍵のかかった扉だろう。そこの鍵は、かつては私も持っていた。王族、または王族に加わる予定の者は、王族としても自覚を持つために鍵を渡されるのだ。

 もしかしたら。可能性の低い話かもしれないが、先程の兵はマリア様の命令を受けて動いているのでは……。マリア様の悪口を言ってはいたが、それはマリア様の近くにいて、マリア様の様子をよく知っているからなのではないだろうか。どちらにせよ、あの兵達は誰が王族、もしくは王族の婚約者の命令と許可を得て地下室に入ったことは、間違い無いのだが……。

 私達は地下室の扉を通過し、階段を降っている。冬菜に私の予想を説明したら、興味深そうに頷いていた。案外筋の通っている話なのでは無いかと思う。

 階段を降りながら、魔力探知でさらに詳しく地下を調べる。小さな情報でもいい。何か見つけることはできないだろうか。更なる情報を求め、私達は恐怖を勇気で上書きし、進んでいった。

……引っかかったわ。

 冬菜のその声に、私は喜ばなかった。冬菜の声が、明るくなかったからだ。その声を聞いただけで、良くないものを見つけてしまったことはすぐにわかった。

そうよ、最近見てなかったのよ。どうしてこんなところに……。それも、こんなに弱って。

 冬菜は焦ったように私の手を引っ張り、扇動する。見ていなかった、弱っている。何が起こっているのか、あまり予想できない。けれど、なんとなくわかったことが一つある。

 もしかして、冬菜の仲間、精霊が弱っているの……。

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