第4話会議
「まずは、回収した武器についてですが、使えそうなものはありましたか?」
「はい。それについてですが、大量の銀と手榴弾、RPG-2とM203グレネードランチャー、複数種類のアサルトライフルを回収して修正しています。しかし、弾丸、弾頭の数が少ないため、使えるものを限らせた方が良いかもしれません」
「…………すんません」
「本当にな」
結城が加賀に向けて冷たい視線を投げる。
派手に暴れるついでに基地にある弾丸も少なくなっているため、回収に向かったのに一番最初に見つかったのが加賀だ。そのせいで陽動組に向かうはずだった吸血鬼達が探索組にも向かってきてしまった。
何とか持てるだけのものは持ってきたが、肝心の弾が少なく、全員が使うとなると十分な数に達しなかったのだ。
「分かりました。弾丸の方は本隊の方に掛け合ってみましょう」
弾丸の出ない銃などただの飾りか鈍器にしか使えない。しかし、それだけで吸血鬼に対抗することはできないので弾丸は不可欠だ。
本隊に掛け合ったとしても碌に物資が送られてきたことはないが、しないよりマシである。
「それでは、工場の被害の方ですが…………突如として出現した氷によって工場ごと氷漬けにされています。 これについては分かっていることはありません」
「……ふ~ん」
「…………」
「…………」
「(……………………いや何か言ってぇ!? 怖いよこの沈黙!!)」
朝霧が目を細め、加賀が興味なさそうに相槌を打ち、結城が考え込む。
赤羽も報告をするだけで何も言わない。そして、周りの奴らも何も言わない。勿論工場を氷漬けにしたのはルスヴンなので、それを隠している北條も何も言えない。
北條としてはこの沈黙は恐ろしい。考えがあるなら口にして、隠蔽の参考にさせてほしいのだ。
「なぁ、北條……お前、最後だったよな。何か見てないのか?」
背もたれにも垂れかかった加賀が尋ねてくる。
興味なさそうにしていたくせにお前が尋ねるのが一番最初なのかと心の中で突っ込みながら、予め用意しておいた内容を口にする。
「悪い、俺も分からないんだ。氷漬けになった所は見たけど、誰がやったかまでは見ていないんだ」
「へぇ、そうなのか。ていうか、よく逃げ切れたな」
「まぁな。装備全部使いきってギリギリ逃げ切れたって感じだ」
誰がやったかを知らないで押し通す。それしかない。
逃げ切った所で気付いたら工場が氷漬けになっていました。そう言えば、知らないことに対して追及されることはない。
表情は最早慣れたポーカーフェイス。……内心は冷や汗だらだらだが。
「…………そうですか。この現象の謎については後回しにしましょう。この存在が私達に牙を向けていないのは事実ですし、何より先に話し合うべきことがあります」
話が切り替わった瞬間に、内心ホッとする。
皆が訝し気な視線を向けてくるような気がするが、追及してこないし、ルスヴンのことを話したこともない。よって大丈夫!!――――と思うことにする(この時肝心の本人は北條の中で寝ていました)。
「次に被害状況についてです」
その言葉とともに部屋の中がピリッとした空気に包まれる。
これまで椅子を揺り籠のように揺らしていた加賀も座り直し、北條も緩んだ思考を切り替える。
「被害状況ですが、私達の方は大した被害は出ていません。しかし、私達を囮にした本隊が甚大のようです」
「具体的にはどれくらいなの?」
「…………任務開始前は能力者が三名、戦闘員が六百名いましたが、帰ってきたのはその三分の一にも満たしておらず、現在も行方不明者がいると聞いています」
「…………」
「――――っ」
「――マジかよ」
「――――」
あまりの被害の大きさに一同が言葉を失う。
朝霧が腕を組んだまま目を細め、北條が唾を飲み込み、加賀が信じられずに声を上げ、結城が持っていた本を強く握りしめた。
前回襲撃した工場、あそこは人間達から奪い取った武器を破壊するための工場だ。武器の奪還――そのような名目で少数精鋭で襲撃を仕掛け、派手な動きをする。
その間に本隊は、この街の頂点に位置する吸血鬼、飛緑魔の根城である赤城を襲撃する手はずだった。
「――――本隊は、どこまで進んだの?」
不意に、口を閉ざしていた朝霧が問いかける。
こちらの被害状況は分かった。では――相手の被害は?
その言葉に北條がハッとして、赤羽の顔を伺う。
四百名近い、被害が出たのだ。ならばせめて一矢報いたと言って欲しい。そうでなければ、犠牲になった者達が浮かばれない。
しかし、その願いとは裏腹に赤羽の口から出た言葉は残酷だった。
「相手の被害は詳しくは確認できていません。 しかし、最後に撤退できたメンバーからの記録からして無傷です」
再び部屋の中が静まり返る。
「それどころか、まだ門に触れることもできていないようです。 今回の襲撃で三回目――あれだけの人数を動員しても誰も突破できなかったとなると突破は絶望的ですね」
「相手はやっぱり、ジドレーっすか?」
「えぇ」
ジドレー、それが赤城へと到達するまでに越えなければならない二つの門のうちの一つを守る吸血鬼の名前だ。
レジスタンスの間では執着のジドレーという名で通っており、数少ない上級吸血鬼のうちの一人だ。
その名を聞いた時、かつての屈辱を思い出した赤羽が僅かながら眉を顰める。
それは、ある防衛任務についていた際のこと。気まぐれで襲い掛かってきたジドレーと戦闘になり、赤羽と同じ任務についていたもう一人が全力で戦ったものの敗北をしてしまったのだ。
当時よりも強くなったとは言え、一人で戦って勝利などは無理だ。気まぐれで戦っている時の戦闘能力は予想できるが本気でこちらを敵だと認識されるとどうなるのか、まだそこは未知の領域だ。
部屋の中に一つの舌打ちが響く。
「――チィッ。だから言ったんだ。 正面突破に拘るなって……なのにアイツらは」
「朝霧さん、そこまでにしておきましょう。死者をどういっても戻ってはきません。 私達がするべきことはこれからどうするかです」
朝霧の言葉を赤羽が窘める。
しかし、空気は重いままだ。無理もない。自分達が苦労して工場に潜入し、作戦の成功を祈っていたが、結果は散々。
「能力者達は? どうなっているの? 正直言ってアイツ等がいない方がかなり厳しいわよ」
ジドレーと戦闘の際には必ず一番前に出て戦っていたであろう能力者達。彼らの損失はハッキリ言って替えの利く非能力者の戦闘員の損失と比べて痛い。
街が闇に覆われてから能力者を増やすための設備や研究機関は全てなくなってしまっているため、増やすことはできない。寿命で死ぬことなどなくなった身だが、完全に死から逃れられた訳ではない。重要な戦力なのだ。
朝霧の問いに対して首を横に振る赤羽。
それだけで、良い答えが出てこないことは予想できた。
「彼らについても現在行方不明になっています――――勿論、石上さんについてもです」
「……そう」
恭也――その名を赤羽が口にすると朝霧が一拍おいて返事をする。
「あの、すみません。本隊の方は、立ち直しは可能なのですか?」
「それは分かりません……今回は殆どのメンバーを失いましたからね。立て直すとしてもかなりの時間が必要なはずです」
「そうですか」
伝えられる情報に俯くことはないが、皆が感情を隠しきれていないのが分かった。ある者は旧知の存在を祈り、ある者は敵への恐怖を強くする。
暗い表情は切り替えられたが、その情報は心の中に強い爪痕を残したのは確かだった。
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