第90話青い火花


 地獄壺跡地。今そこは正に戦場と化していた。

 銃弾が飛び交い、人が倒れる。

 彼らは全員別々の企業に雇われた戦闘員であり、地獄壺に使用されていた前時代の遺物の回収が目的だった。

 争っているのは4つのグループ。1つのグループを他の3つのグループが襲っていた。


「クソったれめぇッ。死にやがれェ‼」

「これは俺達のもんだ。誰にも渡さねぇぞ‼」


 咆哮を上げて銃を乱射する男4人組。

 最初は12人いた彼らのグループも襲撃を受けて今では半分に減っていた。彼らの周囲には退かした瓦礫の山がある。

 それに隠れながら反撃をするが、相手の数の方が多すぎて倒しきるよりも先に銃弾が尽きるのが先だった。


「——クソッ」


 みるみる減っていく自分の銃弾を見て唾を吐き捨てる。彼らが守っている後ろには2つ大型トラックがあり、その荷台には瓦礫が大量に積んである。

 彼らには今回、回収する物がどういったものなのか分からない。とんでもない代物だと言うことは分かる。金にはなる。ということは分かるが、それがどのような形をしているかなどは見当もついていない。

 地獄壺がまだ形を保っていれば外壁だと分かるのだが、ペナンガランとレジスタンスの戦闘のせいで地獄壺は跡形もなく瓦礫の山と化した。

 だからこそ、彼らはそれらしいものを見つけてはトラックに詰め込む。という行為を繰り返していた。

 速く場所取りをしたこともあり、最初の1台のトラックはここから出発することが出来た。だが、その途中で瓦礫を回収していた所を見られ、襲撃されたのだ。

 襲撃を受けた理由は簡単。他のグループも瞬間衝撃吸収壁とただの瓦礫の見分けがつかなかったのである。


「テメェらはそこらの石ころでも持って帰ってろ。こっちに来るんじゃねぇ‼」


 大声を出し、銃を乱射する。

 いっその事トラックに乗って突っ込んでしまおうかと考えたが、相手だって戦闘衣バトルスーツを当然のように来ている。トラックに乗って逃げても追いつかれてしまうだけだった。

 男達がここを無事に逃げ出すには、襲撃者達を皆殺しにするしかない。


「くそっくそっくそっ‼」


 仲間の1人が突撃銃を放り投げ、近くにあった石ころを掴んで投げる。弾が切れたのだが直ぐに察することが出来た。

 だが、そんなことをしてしまったら、相手に自分は弾がないと言っているようなものだった。

 弾幕が激しくなる。周囲の者達が一気に勝負を付けようとしているのだと理解できた。


「ひ、ひぃいっ」

「もう逃げようッ。死んだらもうおしまいだ‼」

「馬鹿野郎ッ。大金が掛かってんだぞ。逃げられるか‼」

「馬鹿はテメェだ‼ 金も命が無きゃ使えねぇんだ。俺は逃げるぞ‼」

「な——待ちやがれ‼」

「止めねぇかお前等‼」


 もう駄目だと諦める者。恐怖で動けなくなる者。仲間内にも亀裂が入り始める。

 それぞれが反応を示す中、それを更に混沌に落とす出来事が起きる。


「ギャアァ⁉」

「お、お前等ッ」

「たすけ——」


 周囲から聞こえる悲鳴に動きが止まる。

 自分達を襲っていた者達が、別の襲撃者に襲われている。


「トラックに乗れ‼」


 その言葉に全員が弾かれるように動いた。

 襲撃者が襲われている今、男達に対する銃弾は止んでいた。しかし、直ぐにそれは再開されるだろう。

 それも先程の襲撃者よりも強力な者達によって——。

 それが分かっていたからこそ、男達の動きは早かった。

 それぞれのトラックに2人ずつ乗り込み、アクセルを思い切り踏んで発進させる。


「早く。早くッ」

「分かってる。お前は後ろを警戒してろ‼」


 せかすように捲し立てて来る隣の男に怒鳴り返し、ハンドルを操作する。銃撃が聞こえる感覚は短くなり、もう悲鳴は聞こえなくなっていた。


「来た——来たぞ‼」

「チィッ早いな。もっと他の奴等と遊んでたら良いのによぉ‼」


 隣の男が後方に人影を発見する。

 電子ゴーグルによって暗闇の中でもクッキリと襲撃者の正体を見ていた男は叫ぶ。


「あ、アイツ等カモダのロゴマークの装備を着てやがる⁉」

「カモダだと⁉ まさかアイツ等カモダの連中か⁉」


 目を見開き、バックミラーで後ろを確認する。だが、そこに映るのは暗闇のみ。残念ながら車には電子ゴーグルのような暗視昨日はついていなかった。

 鏡で姿が確認できない以上、頼りは隣の男だけ。そう思って声を張り上げる。


「おい。後ろをしっかり守れよ‼ 弾は俺のも使って良い‼」

「…………」


 襲撃に備えるように命令するが、隣にいる男は何の反応もしない。

 窓から身を乗り出し、後ろを凝視するだけだ。銃を構えもしない。その様子に男は目を吊り上げる。


「聞いてんのか‼ おい‼」

「うるせぇ。静かにしろ‼ なんか変なんだ⁉」

「——何?」


 その言葉に込み上がっていた怒りが静まる。

 運転席からは後ろの状況は把握できない。しかし、男が嘘を言っているようには見えない。後ろを見続ける男の様子からして、身の危険を感じられることではないのかもしれない。だが、むしろそれが不安を掻き立てる。


 男達はカモダ重鉄工業の装備を身に着けていると言っていた。

 カモダはこの街でも最も力を持っている企業だ。武器開発にも力を入れており、兵器分野でもトップを走っている。

 何か——異質な。自分の理解の外にあることが起きるのではないか。そんな思いが頭をよぎる。

 その不安は正しく、直ぐにそれは実態となって表れた。

 青白い光が奔った。

 目の前で走っていた大型トラックが大きく吹き飛ぶ。


「な、なんだァ⁉」


 慌ててブレーキを踏み、急停止する。

 25トンもある大型トラックが、まるで枯葉のように飛んでいく様。男の度肝を抜くのには十分だった。


「に、逃げろぉ‼」


 隣にいた男の言葉に正気に戻される。直ぐにギアを入れ替え、後ろへ。

 後ろには襲撃者達がいたが、この時ばかりは男の頭の中にそのことは入っていなかった。


「何なんだよッ——あれは⁉」

「俺が知るか‼」


 顔を恐怖で歪めながら大型トラックを吹き飛ばした存在を目にする。

 道のど真ん中で仁王立ちした二メートルもある巨漢の男。パリッと小さな音を立てて青白い火花を体から散らせていた。

 青白い火花のおかげで、男の姿も見える。

 肩幅は男の顔の4倍はありそうな程広く、違和感しかない。まるで、体と顔が別々だと言われても信じられた。

 巨漢の男が動く。


「近づけるな‼」


 引き金を引き、2人で巨漢の男に銃弾を浴びせる。


「き、効いてないっ」

「構わねぇ撃ち続けろ‼」


 青白い火花が銃弾を撃ち落すのを目にし、驚愕する。

 有り得ない。意味が分からない。

 男にとって目の前の光景は信じられなかった。まるで異能——レジスタンスに所蔵している人知を超えた力を持つ怪物達のような力。

 巨漢の男がトラックに追いつくのは簡単だった。

 次の瞬間。もう一台と同じように大型トラックは吹き飛ばされた。

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