第170話勝手な行動
「(あいつ等、一体何を話してるんだ?)」
金城とアリマの2人が向かい合い、何かを話し合っている。いや、アリマが金城に食って掛かり、金城が呆れた様子で流している。
その様子から2人の仲は良くなさそうだと推測出来た。
暫くして金城はアリマに背中を向けて歩き去る。その背中にアリマが何か言いたげな様子を見せたが、結局は何も言わず悔し気に堪えるだけだった。
金城が去ったことに北條は胸を撫で下す。
北條自身、あまり金城とは会いたくはなかった。
相容れないから——という理由もあるが、一度顔を見られているのだ。レジスタンスだとバレる訳にはいかなかった。
北條がアリマに近づき、声をかける。
「おい。何やってるんだよ?」
「あ? 何だお前か……こんな所で何してる。さっさと仕事に戻れ」
それはこちらの台詞だ。そう思い、やれやれと肩を竦めるアリマを睨みつける。
「その視線は何だ。全く……仕事はやらないのに文句はあるのか」
「さっきの奴と何を話してたんだよ」
「俺の高尚な作戦などお前には理解出来ないさ」
見下す様子を隠さないアリマに北條は苛立つ。
「さっきまでずっと無線で呼びかけていたはずだけど?」
「ふん、お前達の無意味で時間のかかる作戦に付き合う理由がないな。全く、もう少し頭を使えば良いものを……無駄があり過ぎるんだよ」
「だから単独行動していたのか。相手に吸血鬼がいるのに」
「相手が誰であろうと俺が負ける道理はないな。ククッお前も良く見て学ぶと良い。賢い戦い方ってのをな」
一体何を根拠に言っているのか。吸血鬼に本当に勝てると思っているのか。これまでの歴史を学んだことがあるのか。
自信のある様子の自信を持つアリマに思わず北條は苛立ちを忘れた。
「お前、一体何するつもりだよ」
「同じことを二度言わせるつもりなのか? それとも学習能力がないのか? 俺の作戦をお前如きでは理解出来ない。何より力不足だ」
「だったら結城には連絡入れろよ。あいつは俺達のリーダーだぞ」
「リーダー? あの小娘が? ククッそれは何の冗談だ。異能持ちなんてただの争いの道具に過ぎないんだ。それがリーダーだなんて笑っちまうな」
「何だと?」
仲間を道具呼ばわりされては、北條も黙ってはいられない。
「あいつが道具な訳ないだろ」
「ふん、何も知らんらしいな。異能持ちは吸血鬼に対抗するために人類が生み出した武器だぞ。吸血鬼に負けた欠陥兵器だがな。その中でもあいつは欠陥同士から生まれた更なる欠陥兵器。分かるか? あいつは使われる側として生まれ、その中でも使い潰されることでようやく価値が生まれる劣化品なんだよ」
アリマの言葉に北條が固く拳を握る。
「あ、何だその拳は? まさか殴るつもりか? 少ないとはいえここは人通りがあるんだぞ」
「——チッ」
人通りが少なく、見えずらい位置にいるとは言え、騒ぎを起こせば当然目立つ。それは北條としても望んでいないこと。
固く握り締めていた拳を解く。
「それでいいんだ。お前が馬鹿なのは分かっていたが、愚かでなくて良かったよ」
ニヤニヤとしながらアリマが北條の横を通り過ぎる。
「来ると良い。これから先はあの欠陥品の道具と馬鹿なお前達を使って犯人を炙り出してやる」
自信満々な態度でアリマが通りを歩く。
その姿に一体何処から自信が出てくるのか不思議に思いながら北條は付いていく。無論、結城に連絡を取るのも忘れない。
「分かった。直ぐに合流する。だから、余計なことをしないように見張っていて」
「了解」
結城の指示を受け、北條が無線機を切る。
「ククッご苦労なことだ」
「お前、やっぱり通信切ってなかったな」
「だからなんだ。俺が答える理由などないだろう」
結城が北條に指示を伝える際、使用したのは全体通信だ。それはアリマが無線機を切っているか、切っていないかの確認のために行ったことだが、案の定、無線機を切っていなくとも無視していただけだと分かり、北條はアリマに冷たい視線を向ける。
そんな視線など意に介さず、アリマは口を開く。
「それにしても俺を監視か。随分と調子に乗ってるじゃないか」
「何が調子に乗ってるだ。嫌なら指示に従えば良いじゃないか」
「ふん、能力の劣る者に顎で使われるなど我慢ならないな。何より、俺の手柄を奪われるなど御免だ」
「結城も、俺達もそんなことはしないぞ」
「どうだかな。お前達は何を考えているか分からない21支部の人間だからな」
アリマがふん、と鼻息を鳴らす。
「お前は21支部にいるのが不満か?」
「不満かどうかだと? そうだな。不満——と常人ならば答えるだろうが、俺は別に不満じゃないよ。何故なら俺は俺の能力が評価されて第21支部へと配属が決まったんだからな」
「……それは良い意味での評価か?」
「当たり前だろう。まさか、俺の評価が低いからここに配属になったとでも思っているのか」
「…………」
能力の評価は兎も角、性格が難ありと判断されたからここに来たのでは。その言葉が喉を出かけたが、寸での所で呑み込む。
「まぁ良い。それよりもう直ぐ目的の場所に着く。これからは俺の指示に従えよ」
幾つもの通りに繋がる広場に北條達は出る。
一気に人通りが多くなり、車が走る姿も見え始める。
「こんな所で何をするつもりだ?」
「決まっているだろう。犯人捜しだ」
「そんなことは分かってるよ。聞きたいのはどうやって犯人を捜すかだ」
「お前はどうやって集団の中から犯人を捜すか知ってるか?」
北條の問いに答えずにアリマは逆に北條に問いを投げる。
思うことはあれど、北條は少しの間考え込み、口を開く。
「——目元を見て判断するかな。それに耳の形とかほくろの位置も見る。整形や年齢で変形しづらい部分だからな」
「ふん、基本通りの犯人捜しだな。それじゃあいつまで経っても見つからない。本当に見つける気があるのか?」
「悪かったな……それじゃあお前はどうやって探すんだ?」
「探しはしない。出て来てもらうんだよ」
「どういうことだ?」
アリマの言葉の意味が分からず、北條は眉を顰める。
アリマは得意げな顔で髪をかき上げる。
「強盗犯共に賞金を懸けた」
「は? 賞金? 誰なのかも分かってないのにか?」
「あぁ、こそこそ隠れている奴等だ。多くの人間が探しているとなれば、簡単に頭を出してくるだろう」
「おい、待て。冗談だろ?」
「はぁ? 何を言ってるんだお前は。冗談何て口にするか」
アリマの言葉を疑う北條だが、残念ながらアリマの口から出たのは否定の言葉だった。
急ぎ、北條は結城に連絡を取る。
「はぁ、慌ただしい男だ。少しは落ち着けないのか」
表情を硬くして無線機で結城と連絡を取る北條を見てやれやれとばかりにアリマは肩を竦める。
近くの自動販売機から珈琲を片手に柱に背を預けて寛ぐ。
一般人の中に潜む強盗犯を見つけ出すなど僅かな人数では不可能。
見つけるにはもっと人数が必要だ。だからこそ、アリマは裏の人間達を利用した。匿っていたとしても思わず差し出してしまいたくなるような金額の賞金を。
——もうすぐ、もうすぐ見つかる。
ほくそ笑みながらアリマは情報をばら撒いた者達からの連絡を待つ。
そして、その時が来る。
暗い常夜街に昇る1つの火柱。
小さなものだったが、明かりが最低限しかない常夜街では目立つものだった。
同時にアリマにも個人無線で連絡が入った。
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