第171話火と混沌
走り出すアリマの背中を北條は追いかける。
いつもの服装の下に
誰か1人にでも触れた瞬間、事故待ったなし。そのため、北條は人のいない建物の間を跳んで移動する。
衣服も闇に溶けやすい色を選んだお陰で上を移動する北條に気付く者はいない。
「北條、さっきの爆発だけど」
「アリマが動いてる。多分、さっき言った奴等が関係してると思うッ」
「チッ面倒なことしやがって——私も向かう。一緒にいる馬鹿にこれ以上馬鹿なことをさせないでよ」
「あぁ、しっかり見ておく」
結城との通信を切り、北條は速度を上げる。
既にアリマは現地へと到着していた。
「今どうなってる⁉」
「遅い、遅すぎる。一体何をしていたんだ。拾い食いでもしていたか?」
周囲は火の手が広がり、住民は逃げ惑っている。彼等は何が起こっているかも分かっていないせいでパニック状態に陥っていた。
「住民がッおい、避難を——」
「ふん、下らん。何故そんなことをしなければいけないんだ。俺達は任務に集中するべきだ。愚図など放っておけ」
「お前ッ」
アリマに言い返そうとした瞬間、目の前で住居が崩れかけるのを目にする。
下には妙齢の女性がおり、呆けて上の状況には気が付いていなかった。
北條が地面を蹴り、崩れかける住居から女性を助ける。
「大丈夫ですか?」
「……私、私の、家が——」
「…………」
自分の家が無くなったことのショックで未だに呆けている女性。
家を、財産を失くした者の末路を知っている北條は、女性の浮かべる絶望の表情を見て胸を痛める。
安全な場所に女性を連れて行き、直ぐに現場に戻った北條はこんなことをしでかした元凶を探す。
「(アリマの話じゃ強盗犯に賞金を懸けたらしいけど、これはそいつを狙った奴等が起こしたものか? それとも強盗犯が逃げるために?)」
爆発を起こした者、そして強盗犯らしき者達を探すと共に取り残されている住民達を助けていく。
だが、当然ながらそれは効率が悪い。そこら中に取り残されたり、パニックになっている住民がいるのだ。真面に強盗犯を探すこともできない。
加えて——。
「くそ、アリマの奴何処行った⁉」
北條が住民を助けている最中、アリマがじっとしている訳がない。
アリマが立っていた場所やその周囲にアリマの姿はなく。無線機で呼びかけても返事はない。
傍を離れたのは北條なので、自業自得だが、思わず北條は悪態づく。
「はぁ~い。北條、何かお困り?」
そんな時、北條の無線機に声が届く。
全体通信ではなく個別通信。しかし、暗号化された信号を知らなければ出来ない芸当に藤丸は目を見開いた。
「もしかして、ミズキ?」
「うんうん気が付いてくれた。これで誰? とか言われたら弾頭をぶち込む所だった」
さらっと恐ろしいことを言われた北條だが、知り合いが無線機に割り込んで来たことの方に驚く。
「一体何してるんだ? 仕事なら今は受けられないぞ」
「知ってるわよ。でも、裏で面白い情報が回ってたからアナタが関わっていそうと思ってね」
「——まさか、強盗犯の首に賞金が懸かったことか?」
「大当たり。今アナタがいる爆発現場のことも何が起きてそうなったのかよく知っているけど、情報は必要?」
「教えてくれ‼」
手がかりも一切掴めなかった状態だったため、北條はミズキの言葉に飛びつく。
予想通りの言葉にミズキはほくそ笑む。
「ん~。良いんだけど、報酬なしってのは商人として容認できないなぁ~」
「……値段は幾らだ?」
「多分北條じゃ払えないと思うよ~。でも、そんなアナタにお得な情報‼ なんと、今ならアタシの頼みを1つ聞いてくれるのなら今回のお値段が無料に——」
「分かった従う」
「さっすが北條、こういう時の即断即決お見事。それじゃ早速情報を渡すね。でも、移動しながらの方が良いわよ。相手も動いてるから」
「どっちに向かえば良い?」
「西よ」
「西だな。分かった」
ミズキの言葉に従い、北條は西に向けて走る。
「北條、取り残された奴等は近くにいたレジスタンスの連中が避難させてる。だから、アナタは心配しなくて良いわよ」
「——ありがとう」
情報を渡す前に、取り残された住民について語る。
自分の心残りを解消してくれたミズキに礼を口にし、後ろを気にする必要がなくなった北條は速度を増した。
「強盗犯に賞金が懸けられたっていう情報が広まってから色んな連中が動き出したわ。今回の爆発に関わっている連中はドロップって言う弱小ギャングチーム。あ、でもそいつらは気にしなくて良いわよ。自分達の爆弾で吹っ飛んで1人も生きてはいないわ」
「責任取る奴が死んでるのか……」
「思う所はあるだろうけど、死んでる以上は何を言っても無駄よ」
「分かってる。続けてくれ」
「了解、それでそのギャングチームの他にも
「改めて聞くと変な名前だな。持ってる力は洒落にならないけど」
羅列された組織の名前に北條はげんなりとした表情をする。
どれも常夜街に住む者なら知っている関わってはいけない組織だ。特にレジスタンスと真っ向から敵対している吸血鬼至上主義団体は危険だ。
吸血鬼を至高な存在と崇め、自分達も吸血鬼になろうと人間狩りをする者達だ。
「そんな連中が出てくるなんて」
「懸けられた賞金が馬鹿でかかったからね。アナタの今の相棒、ちゃんと考えて賞金懸けたの?」
「そんなの俺も知りたいぐらいだよッ」
そもそも賞金の話を聞いたのもついさっきである。北條が懸けられた賞金の金額など知る由もなかった。
「北條、もう少しで着く。アリマって奴も強盗犯らしき奴も一緒よ。それじゃ、私はやることがあるから通信を切るわね。すぐに会うことなると思うけどじゃあね。」
「分かった。道案内ありがとな」
「えぇ、たっぷり感謝して。お返し、覚悟してなさいよ」
ミズキとの通信が切れて数分、ミズキの言葉通り目的地に直ぐ辿り着く。
目の前に広がっていたのは大量の人の死体だった。
「——ッこれは」
北條が息を呑む。
幼い子供、老人の死体。それどころか原型すらなくなったものもある。思わず目を背けてしまいそうな光景がそこにはあった。
その空間の奥にアリマの姿を見つけ、北條は駆け寄る。
「アリマ‼ これは一体何があったんだ⁉」
「何だ、今更のご到着か。喜べ、早くも任務が達成できるぞ」
「——は? お前、何言ってんだよ。今それどころじゃねぇだろうがッ」
まるで、周囲の光景など見えていないかのように振舞うアリマに北條は頭に血が昇る。
「見ろ、周囲がどうなってるのかお前には見えねぇのか⁉」
「ふん、ここは犯罪者が身を隠す場所で有名な所だぞ。いるのは悪党ばかりだ。気にする必要はないだろう」
「子供も——老人もいたんだぞ‼」
「
鬱陶しそうに眉間に皺を寄せてアリマが北條を睨みつける。
その言葉に北條は絶句した。
「子供だから? 老人だから? それだけの理由でこいつ等を俺が身を削って助けろと? 馬鹿を言うな。そんな価値、こいつ等にはありはしない」
「この惨状を作った元凶はお前だろうがッ」
「俺が? ふん、この状況は愚図1人を捕まえるために金に目が眩んだ亡者共がやったことだろ。それにしても、あいつ等も馬鹿だよな。ただの噂にあぁも踊らされるなんてな」
「何だと——?」
北條がアリマの言葉に怒りを覚えた北條だが、後ろが騒がしくなったことでアリマに怒りをぶつけることができなくなる。
一度冷静になり、耳を澄ますと聞こえてくるのは目の前で尻餅をつく男のことを探すような声だ。
「他の奴等が探しに来たのかッ」
「ならさっさとここから逃げるぞ。ほら、さっさとこいつを連れていけ」
「なっ——俺がかよ⁉」
「そら行くぞ」
「あ、お前——クソッ勝手に行きやがって。おい、あんた、死にたくなかったら暴れるなよッ」
尻餅をついている男が何かを言う前に北條は素早く担ぎ上げる。
後ろから誰かが叫んでいる声が聞こえたが、屋根の上に駆け上がり、その場から離脱した。
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