第48話同士討ち

 加賀の操作する無人機ドローンが斥候し、その後を北條と結城が続く。

 一頻り騒ぎを起こしてしまったが、幾分か落ち着いて行動できるようになった結城。

 敵地で騒ぎを起こしたことは褒められたことではなかったが、それでも騒ぎを起こしたことでガス抜きにはなっていた。

 もう金輪際先程の話題を振らないことを確約させ、結城は思考を切り替えていた。というよりも切り替えざる負えなかった。思い出すとまた顔が茹で上がること間違いないからである。


「敵影無し。良いぞ」

「了解」


 そして、北條と加賀ももう結城を揶揄うことはしなかった。話を続けるのならば実力行使冴え厭わない。そう告げられたからだ。

 ルスヴンの力を除いて、3人の中で強いのは結城だ。体格や膂力で勝っていようと関係ない。異能という力には無力。

 そして、その時の本気の殺意に北條と加賀は頷くしかなかった。


「いないな」


 斥候に無人機を向かわせた加賀が呟く。

 敵がいないことを確認した。のではなく、敵がいないことを懐疑していた。

 それについては北條も気にはなっていた。なんせ、先に進むにつれて敵の数が減っているからである。


「どう思う?」

「…………」

「そりゃ、どっかで罠張ってんじゃないのか?」


 北條の問いかけに結城は黙考し、加賀は最も考えられる可能性を上げる。


「なぁ、無人機で探せないのか。罠がありそうなポイント」

「探せるだろうけどさ。敵の姿がないとは言え、今より音の出力を上げると見つかる可能性はあるぞ? そうなったらお前等の生存率が格段に落ちる。それでも良いのか?」


 無人機は敵に見つからないように音の出力を抑えている。ならばもっと高く、更に上に高く出力を上げて広範囲を感知することが出来れば迷路の突破も何処に罠があるかも知ることが出来る。と考えた北條に加賀は危険性を口にする。

 無人機のスペアはない。なのにこんな序盤でそれを失って良いのか。命を懸けているのは北條と結城だ。やることには構わない。けれど危険性は承知の上かと確認するように問いかけてくる。

 北條は視線を結城に移す。

 命令を受けた訳ではないのでリーダーが決められている訳ではない。だが、最もリーダーの経験があるのは結城だ。

 だから今回の仕事の実質的なリーダーは結城だと考えていた。

 黙考していた結城が視線を受けて口を開く。


「出力を上げて調べて。もうこの際破壊されても良い。相手が動かないのならこちらが動くまでよ」

「分かった。文句は言うなよ」


 それだけ言い残し、加賀は無人機の音の出力を上げる。

 音の反響はすぐに返って来た。人間では捉えられない微弱な音の波も機械であれば可能。

 無人機が音の出力を上げてこれまで以上の範囲を捜索し終わると直ぐに加賀から連絡が入る。


「罠はなかったけど、見つけたものはあったぞ」

「何を?」

「出口と別の部隊の人間だ。案内する」


 無人機から情報が送信され、情報識別機にルートが示される。北條と結城は顔を見合わせると直ぐにその場へと急いだ。





 発見した人間は対吸血鬼装備で身を固めていた男。白く短く整えられた髪に吸血鬼にやられた古傷を頬に残した男が血塗れで倒れていた。

 急いで傷を見ようと北條が駆け寄る——が、傍に近寄った瞬間に理解する。目は焦点があっておらず、体は冷たくなりつつある。もう既に、手遅れだった。


「————後続の、部隊」

「はい、その通りです。安心してください。貴方は助かります」


 助かるはずがない。だが、安心をさせるためにも北條は嘘を口にする。


「フ——そう、か…………後続が来たか。お前達……だけか?」

「いえ、それよりも情報を頂きたい。貴方の部隊はどうなったのですか? 何があったのですか?」


 どう答えようかと迷った北條の横から結城が割り込み、男に問いかける。

 男もレジスタンスとしての矜持があった。自分の役割を思い出し、疑問に蓋をして結城に情報を渡そうとする。

 言葉では伝えきれない。そう判断すると自分の情報識別機についてある有線を指差す。

 有線による情報伝達をしようとしていると結城は察すると相手の情報識別機と自分の情報識別機を繋げた。

 情報の伝達は直ぐに始まる。

 口頭で伝えるならば10分以上はかかる情報の伝達が数秒で済まされる。

 情報の伝達が終わると結城は男に向き合った。


「ありがとうございます。貴方のおかげでまた我らは前進できます」

「そ、うか……それは、良かった。————いずれ、太陽を…………この手に」


 男が安堵の表情を残し、瞼を閉じていく。

 心音は小さくなり、腕は力なく地面に落ちた。


「亡くなってる」

「そう」


 短く呟くと結城は男の死体から離れて近くにある階段へと向かっていく。

 そのあっさりとした態度に何かないのかと口にしかけるが、咄嗟にそれを飲み込んだ。

 結城の行動は間違ってはいない。前に進むことこそが大事だ。そう自分を納得させて北條も立ち上がる。

 その時、北條の情報識別機に結城が男から受け取った情報が送信されてきた。


 映っていたのは男の視界。

 部隊が何処まで進んだか。他の者はどうなったのか。誰にやられたのか。

 全てを物語る情報があった。


「吸血鬼がいないのはこの人達が殆ど倒したからか」

「えぇ、おかげで楽できた」


 何故敵との遭遇があれほど少なかったのかが判明する。

 ここに侵入した3つの部隊が殆どの敵を殲滅したからだ。

 その侵入方法もかなり手間が欠けられていた。

 地獄壺に侵入した3つの部隊は現在北條達が立っている床下、地下から侵入したようだった。

 衝撃を加えると硬化する瞬間衝撃吸収体を利用した堅牢な壁に覆われている地獄壺。それは床下も例外ではない。爆発物で吹き飛ばしても突破は出来ない。

 だが、彼らはなんと新たに穴を掘り、地獄壺の下まで行くと一つ一つの壁をゆっくりと引き剥がしていくことで突破していた。

 この1階層は全部隊無事に突破できた。

 それを示す情報が流れてくる。だが、その後——。


「あそこから撃たれたのか」


 部隊を急襲した者達の情報が流れてくる。

 殺したのは吸血鬼ではなく人間。しかもレジスタンスの別の部隊。

 思いもよらなかった情報に表情を歪める。


「操られていたようね」

「あぁ、普通じゃない」


 男が所属していたのは12番と呼ばれていた部隊。

 彼らを襲撃したのは33番の部隊だ。全員が目を虚ろにし、致命傷を負っても殺そうとしてくる者までいる。明らかに普通ではないのが分かった。

 撤退している最中に仲間は全員死亡。最後にここまで辿り着いたものの息絶えた所で情報は終了した。

 残念ながら33番の部隊がどこで操られたのかまでは分からない。それは33番の部隊の者達に教えて貰うしかないだろう。


「どちらも生きていて欲しくないわね」

「…………」


 結城の言葉に北條は何も言わずにいた。

 襲撃した方もされた方もどちらも無事で済んでいるはずがない。最悪、全員が操られている可能性がある。

 そうなったら今度は自分達が彼らと戦わなければならない。

 洗練された部隊の連携、指揮官の戦略眼。全てが北條達を上回っている。何より仲間内で殺し合うことを北條はしたくはなかった。

 息を吐き、銃を持ち直す。


「確認お願い」

「了解、これまで以上に気を付けよう」


 結城の指示に加賀が無人機を操作する。

 ここから先が本番。全員が神経を研ぎ澄ませ、階段へと足を掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る