第98話向かう先には

 

 地獄壺跡地の北部。そこでは3人の男達が倍以上の数の男達に銃を付き付けていた。数は力だ。戦闘に慣れていない者達でも数を揃えればそれなりの脅威になる。

 それなのに3人の男達は数をものともせずに制圧した。逃げる者には容赦なく銃弾を浴びせ、向かって来る者には更に苛烈に攻め立てた。

 もう跪いている男達に戦意はない。彼らに残されている希望は頭を下げ、許しを請うことだけだった。

 男達の内の1人が叫ぶ。


「た、助けてくれ。何でもするから‼」

「…………」


 無表情で眺めて来る相手を見て、男達は自分達の死期を間近に感じ、恐怖で顔を引き攣らせる。


「すまなかったよ。馬鹿なことをした‼ もう俺達はここには近づかねぇ‼」

「そ、そうだ。その通りだッ」

「お前等の部下になるッ。だから許してくれ‼」


 顔を涙でぐしゃぐしゃにして泣きつく男達。だが、慈悲などなかった。ゆっくりと銃口が頭に固定されて引き金が引かれる。

 更に男達が騒ぎ立てる。それに対して3人の男達は何も言わない。

 1人の男が命令を下した。


「やれ」


 激しい火花が散った。

 その数秒後。そこにあったのは死体の山だ。綺麗に頭を撃ち抜かれていた。生き残っている者は誰一人としていない。

 全て片付け終わると隊長である男が最も近くにいた部下に尋ねる。


「よし。ここら一帯は制圧したな。それで例のものは掘り起こせたのか?」

「はいボス。比較的早く掘り起こせました。今は鑑定の結果を待っている所です」


 部下がここにはいない隊員と連絡を取り、内容を隊長に伝える。


「結果が出たらすぐに知らせろ。それまで周囲の警戒だ。2人1組でだ」

「了解」


 部下の報告を受け直ぐに指示を出すと隊長は銃を持ち直し、歩き出す。

 少数で動くことに不安はない。彼らの強さの秘密はその武装だ。カモダから依頼を受け、装備も開発されたばかりの強力な物を渡された。

 その性能は3人で倍以上の数の部隊を壊滅させたことで証明できている。

 これまでの装備とは一線を超すような高い性能。それは正しく人類最高峰の装備。エネルギー消費が激しいことを除けば欠点などない優れものだった。

 これを着ていれば負けることはない。あの怪物共異能持ちにも匹敵することが出来ると密かに思い、隊長である男は準備を進める。


「ボス」


 隊長が周囲の警戒のために準備を進めていた所に部下の1人が報告に来る。

 部下の纏う空気から良くない報告だと感じ取った隊長は手を止める。


「何があった?」

「鑑定の結果が出たようなのですが」

「早いな。時間は掛かると言っていたが?」

「はい。その、既に鑑定するまでもなかったと言っていまして」

「どういうことだ?」


 隊長である男の疑問に部下は言いにくそうにしながら口を開く。


「その、既に破損している状態で使えなくなっていたと」


 その部下の報告に隊長は舌打ちを1つ打った。

 また、である。

 今回、回収する予定の瞬間衝撃吸収壁は地獄壺の外壁に使われていたものである。吸血鬼とレジスタンスとの戦闘で地獄壺が破壊され、ようやく手に入れることが出来るようになった。

 破損しているものがあることは覚悟していたが、今の所全てが空振りに終わっている。既に失われた技術で作られたものであるため、直すことも出来ない。苛立つのも無理はなかった。


「そうか。分かった。ならまた別の所に行くぞ…………そう言えば、アイツはどうしてる?」


 苛立っていても隊長の判断は早かった。

 ここで確保できないのならば、別の所に行く。例え戦闘になったとしてもこちらにはカモダから手に入れた装備品がある。そんじょそこらの部隊に負けるはずがない。

 そう思った矢先、ここにはいない部下を思い出した。

 周囲の偵察に向かったっきり返ってこない大馬鹿な部下。何処で道草を食っているのかと再び苛立つ。

 死んでいるとは思えなかった。何故なら、この部隊の中で最も強力な装備を渡されたのがその部下だったからだ。

 隊長の言葉に部下が答えようとする。が、それより先に横から返事が来た。


「ここにいるぜ」


 隊長と部下が同時に顔を向ける。

 そこには巨大な鉄の体に円盤を付けた奇妙な戦闘衣を身に着ける男——金城神谷がいた。

 ようやく表れた金城に隊長である男が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


「貴様ッ、今までどこにいた⁉ 連絡もせずに何をしていたのだ‼」

「おぅおぅうるせぇ隊長様だ。少しは落ち着けよ。もう年だろ。血管プッツンで成仏しても知らねぇぞ」


 隊長の叱責も何のそのという様子で金城は肩を竦める。

 仮にも隊長である男が舐められてはやってはいけない。部下の勝手を許す男と経歴に傷が付けば、今後の仕事にも影響が出る。

 だからこそ、その態度は隊長にとっては許せなかった。


「何だその態度は‼ 貴様やる気があるのかッ。貴様の勝手な行動のせいで、どれだけの迷惑が掛かっていると思っている‼」

「へいへい」

「~~~~ッ。貴様ァッ」


 叱責されても気にも留めない金城に頭に血が上り始める。このままでは本当に金城の言う通り、血管がプッツンするかもしれない。

 隊長をこれ以上怒らせるな。と部下が金城に目線で訴えかけるが、金城はそれにも応じない。部下は仕方なく隊長を宥める。


「隊長。コイツがこの態度なのは隊に入った時からずっとです。もう気にしていても仕方がありません。それに、これ以上コイツに時間を掛けていては貴重な時間も浪費してしまいます。勝手にやらせ、勝手に死なせた方が良いかと」

「————ッ」

「隊長」

「えぇい。分かっている。全員を集合させろ‼ 1分後には出発する‼」


 隊長の指示に部下が返事を返して直ぐに準備に取り掛かる。

 金城も話しが終わったとばかりに唾を返し、自分の準備に取り掛かろうとする。だが、遅れた理由を思い出し、隊長に向かって振り返る。


「そうだ。そう言えば1人だけ殺せない奴がいた」

「ふん。そうか。貴様の腕も落ちたか」


 嘲笑うように隊長が鼻を鳴らす。先程の仕返しのつもりのようだ。特にどうでも良い金城は取り合わずにそのまま続ける。


「この装備でも殺せなかった奴だ。黒いヘルメットにG666型の戦闘衣を着てやがった。最後には罠に嵌められて爆発を浴びながら逃げやがった」

「だから何だと言うのだ。俺達に力を貸して欲しいのか?」

「ハ——馬鹿を言うな。テメエらなんぞ何人いても意味はねぇよ」


 金城に良い印象を抱いていない隊長は嫌気たっぷりな口調で尋ねるが、金城はそれを切り捨てる。

 再び、隊長の顔が真っ赤に染まった。


「俺は一応隊に所属しているから義務を果たしてやったにすぎねぇ。本当なら、言わなくても良いんだぜ? この街がどういう街なのか長く生きて知らねぇテメェじゃねぇだろう?」

「——ッ」

「だからギャアギャアギャアギャア騒ぐんじゃねぇよおっさん。テメェが死ねば取り分は増えるんだ。何ならここでぶっ殺してやっても良いんだぞ?」


 金城の言葉に隊長である男が口を開こうとして、悔しそうに口を閉じる。

 地位、身分。そんなものは戦場ここには意味がない。文句を言うなら分かっているよな?——そう語る金城に隊長は言葉を返すことが出来なかった。


 2人の仲はそのままに、部隊トラックに乗って更に奥地へと入っていく。

 彼らが向かう足先は奇しくも、北條達のいる場所へと近づいていた。

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