第50話合流
北條達が2層で吸血鬼に追いかけられていた頃、12番の生き残りの者達も同じく吸血鬼に襲われていた。
銃弾の弾幕が通路一杯に敷かれる。
対吸血鬼用の銃弾が吸血鬼に直撃し、胴体に風穴を開ける。だが、倒れない。体に大きな風穴を開けられても吸血鬼は倒れることはない。
下級の吸血鬼でも対吸血鬼用装備で勝てるとは限らない。確実に頭部か心臓を破壊しない限り、吸血鬼は活動を続ける。
体に風穴を開けた吸血鬼が弾幕を突破し、自分を狙撃した侵入者へと迫る。
「——ヒッ」
牙を剥き出しにし、喰らおうとしてくる吸血鬼に覚悟を決めていた男も思わず声を引き攣らせた。
「オラァ!!」
男を組み敷き、頭部を丸齧りできる程大きな口を開けた吸血鬼。男が死を感じた時、傍に駆け寄った男がその吸血鬼を蹴り飛ばした。
死を間近に感じたこと。自分がまだ生きていることに思考に空白が出来た男。そんな男に向かって部隊を率いていたリーダー。
「何をしてる!! さっさと立てぇ!! 死にてえのか!?」
男は慌てて立ち上がり、迫る吸血鬼の殲滅へと移る。
明かに反応が遅くなっている部隊を尻目に大東は舌打ちをする。
いつもの調子ならばこんなことにはならない。ここに来るまでの疲労。仲間の犠牲。何時死ぬかも分からない恐怖。途切れることのない敵の襲撃。そして、仲間だと思っていた部隊からの襲撃。
30名以上いた部隊は今や隊長である大東を含めて9名まで減っている。
連戦が積み重なって全員の精神が疲れ果てていた。
休息が必要だ。10分、いや5分だけでも良い。しかし、それを取る暇がない。
踏みしめている床からの振動。ここに来てから何度も味わった地響きに大東は周囲を警戒する。
「(また来やがったか!!)」
こんな時に、と苦悶の表情を浮かべる。
ここに来てから引っ切り無しに出てくる下級吸血鬼の軍勢。バラバラにくるならば敵ではない。だが、1つの群衆。通路一杯になり、1つの生命体のように来られてしまったら圧倒的物量差に押されてしまう。
ある時は隊員が引き潰され、ある時はそれに気を取られた隊員が吸血鬼に不意を打たれた。避けようとして壁の上に逃れようとしたこともある。だが、その度に機関銃が火を噴き、上に上った者を肉片へと変えていく。
生き残るにはあの大量の吸血鬼をやり過ごすには走って引き剥がすしかない。
だがそれは難しかった。相手には体力の底はなく、何処からともなく現れるのだ。隊員が数人囮にすることでしかやり過ごせなかった。
急いで残っている隊員を収集し、この場から走り出す。
頭の中では囮になる者、生き残る者の選定を行った。だが、暫く走っているとこの振動は自分達を追いかけているのではないと確信する。
「(誰だ。一体誰が追いかけられている? 33番の生き残りか。それとも7番か?)」
自分の部隊の壊滅の原因になった33番の逃げ延びた隊員達か。それとも連絡が全く取れなくなった7番の部隊か。
どちらにしても今追われている部隊が囮になってくれるならば自分の部隊は先に進むだけである。
仲間意識がないという訳ではない。むしろ、その犠牲を無駄にしないために大東は先に進むことを決意する。
「止まれ!!」
襲い掛かってくる吸血鬼を倒しながら先に進んでいた大東が部隊を停止させる。
迷路を早く抜けなければ追われている部隊に巻き込まれかねない。囮になって貰っている仲間のことを考えるのならば一刻も早く前に進んだ方が良い。
だが、目の前にあるもののせいでそれは叶わなくなっていた。
「貴様……」
そこにいたのは金髪の吸血鬼。壁を背凭れにしてダラッと手足を投げ出し、地面に座っている。顔立ちは非常に整っているのだが、態度が悪いせいでせっかくの美形を台無しにしている。
吸血鬼を証明する赤い目が大東達を捉えた。
やる気など欠片もない態度を取っていても、降りかかる圧力は圧倒的だった。
声が引き攣り、喉が渇く。
「(これが、吸血鬼か)」
下級の吸血鬼とは比べ物にならないと苦笑を漏らす。
その時だった。
「真上に敵影!!」
隊員からの警告が飛んだ。
隊員が目にしたのは33番の部隊の隊員達。1層から2層へと辿り着く過程で人数を減らしたようだが、それでも12番の部隊よりも人数差は多い。
全員が迷路の壁の上に陣取り、銃口を向けて引き金を引こうとしている。
大東は僅かな時間で決断する。
吸血鬼の前で視線を切るのは自殺行為。だが、それでもやるしかなかった。
「盾(シールド)を展開しろ!!」
その命令に従って隊員達が腕に取り付けていた黒い長方形の物体——展開式防弾壁を展開した。
銃弾の雨が降り注いだのはその瞬間だった。
盾を掲げて必死に防御を行う。
放たれているのは対吸血鬼用の銃弾。余波だけで人間の体は吹っ飛ぶ。
強力な銃弾は地面に小さなクレーターを作り、粉塵を巻き上げる。
「——グッオォオオオオオオオオ!!!!」
腕が軋む。膝を着いてしまいそうになる。
だが、そうなれば待っているのは死だ。仲間の銃弾で死ぬなど真っ平御免被る。死ぬのならばせめて吸血鬼の力を引き出してから死ぬ。
自身にそう言い聞かせ、心を震わせて体に力を入れる。
そんな時、後ろを見張っていた隊員の1人が声を上げた。
「後ろから2名接近!!」
「ッ——警戒態勢!! 敵意があれば撃て!!」
大東の位置では誰が来たのか確認はできない。だが、この状況で来るのは敵の可能性が高いと後ろにいた部下に命令を出す。
隊員の視界の先には2人の人間がいた。戦闘衣を身に着け、情報識別機に対吸血鬼用の武装を手に持った少年と少女。
走って来ていたのは北條と結城だった。
北條と結城の存在は元33番の部隊の人間達も気付いていた。
下にいる12番の部隊の者達に銃弾の雨を降らす役割を半数に減らし、もう半数を2人の迎撃へと備えさせる。
アスファルトを簡単に粉砕する銃弾が2人に向けられる。
北條達は12番の部隊の者達と同じような盾は持っていない。戦闘衣には防護服の機能もあるが、北條達の来ている戦闘衣では対吸血鬼用の銃弾を弾く高性能なものではなかった。
触れたら即死レベルの銃弾。常人では竦んでしまう状況で結城は嗤った。
「その程度?」
念力の障壁が銃弾を弾き、寄せ付けない。この程度の小雨がいくら来ても結城の張った障壁が破られることはない。
結城が前に出て銃弾を防いだ隙に北條が狙いを定めて引き金を引く。
壁の上にいた数人が銃弾を真面に受けて肉片へと変わる。
北條と結城に向けられる銃口の数が減り、2人を始末するために元33番の部隊の隊員は、12番の部隊に向けていた銃口をそちらに向けた。
振ってくる雨の量が小雨へと変わる。
その変化を見逃す隊員達ではない。
一方的な防戦から反撃に映り、敵の数を減らす。そのおかげで北條達の攻勢が強くなり、元33番の部隊に攻勢は弱くなる。すると12番の攻勢も強くなり、反撃を許してしまう。
挟撃を仕掛けられた元33番の部隊の隊員達は1人、また1人と数を減らし、壊滅した。
だが、それで終わりではない。
「これより吸血鬼との戦闘を開始する!! 階級は恐らく中級、心して掛かれェ!!」
声を張り上げ大東は後ろから来る北條と結城にも情報を伝える。
粉塵は晴れ、そこには変わらず吸血鬼がやる気のない様子で座り込んでいた。
容赦なく、油断なくボロボロになった盾を前に出し、さながら中世の戦士のように防御を固めて一斉射撃を行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます